前々回および前回のコラムで、株を買うタイミングとして「順張り」と「逆張り」があること、そして個人投資家が「逆張り」で対処するのはかなりリスクが高いという点をお話ししました。今回はそれを踏まえて、実際に短期間に株価急落をした銘柄を題材に、「順張り」と「逆張り」とでどのような結果になるのかを検証してみたいと思います。
今回は、読者の皆様のご理解をより深めるため、ある銘柄(以下「A社」とします)を題材としてご説明していきます。
まず、A社株をもともと保有していた場合の対応からです。
A社は悪材料が発覚する前、決算を好感して株価が上昇、25日移動平均線を超えていました。今回はそのタイミング(ア)で順張りにより新規買いしていたという前提で考えます。
アの株価は約1,500円、そこから間もなく悪材料が発覚し、イの箇所で25日移動平均線を明確に割り込んでいます。ですから、A社株をアで購入していた場合、イの翌日の寄り付きのウにて成行で売却します。
もしくは、直近安値のライン(X)がありますから、そこを割り込んだら売却という逆指値注文をあらかじめ出しておいても良いでしょう。
トレンドに逆らわずに売買するのが順張りですから、25日移動平均線を割り込んで下降トレンドへの転換の可能性が高まったら、速やかに売却するのがセオリーです。例え、株価下落がファンダメンタルの悪化を伴わないもので、早晩株価が落ち着いて再び上昇に転じると信じて疑わないとしてもです。自分の考えに反してでも、株価が下降トレンドになったら売却するのが「順張り」です。自分の考えが間違っている可能性も十分に考えられるからです。
その上で、再度25日移動平均線を超えて上昇トレンドに転じたら、「自分の考えは間違ってなかった」として買い直せばよいだけです。
本ケースではアで新規買い→ウで損切りとなり、損失率は15%ほどでした。本当なら10%以内に抑えたかったところです。でも、アのタイミングでの買いが25日移動平均線よりかなり上となってしまった点、そして突然の悪材料発覚で株価が急落する局面だった点を踏まえれば、15%の損失で済めば上出来とみてよいでしょう。
逆張りの場合、株価のトレンドに関係なく「株価が企業価値よりも安い」と自分が判断した時点で新規買いします。そのため、新規買いはアではなく、それ以前の例えばYという可能性も十分にあります。
イで25日移動平均線を割り込み、ウでも株価は大きく下落しています。しかし、株価下落のきっかけとなった悪材料がファンダメンタル面に与える影響は極めて軽微であるとほとんどの個人投資家は考えていたはずです(実際筆者もそう考えていました)。
したがって、イやウの株価下落は、企業価値に比べて実際の株価が割安になっただけであり、ファンダメンタルの悪化は確認されていませんから保有株売却の理由にはなり得ません。そのため、イやウの時点ではそのままA株を継続して保有するという判断になります。投資家によっては買い増し時ととらえた方もいるでしょう。
ところがそれ以降も株価の下落は止まらず、Yの価格から30%、40%と含み損が拡大していくことになります。もしファンダメンタルに一切変化がないならば、株価が30%、40%と下落しても、割安なものがさらに割安になるだけで、保有株売却の理由にはなりません。
しかし株価が大きく下落するにつれて、今回の悪材料を契機に今後の業績が大きく悪化するのではないかという懸念が出始めます。そこで、A株をそのまま保有するか、売却するかの選択を迫られることになります。
イやウの時点ではファンダメンタルに大した影響がないと確信していたにもかかわらず、そこから株価が大きく下落した時点で突然湧き上がる業績の大幅悪化懸念。こうなると「売るも地獄、持ち続けるも地獄」といった様相です。もし売却するなら40%の損失が実現してしまいますし、保有を続けるならば40%の含み損を抱え、長期間塩漬け状態になってしまう恐れがあります。
結局、株価のトレンドを無視して「ファンダメンタルに大きな影響がない」という自分の考えを押し通した結果、大きな損失につながってしまうことが少なくないのです。
次に、A社株を保有していなかった場合の対応です。イの時点で明確に25日移動平均線を割り込んでいますから、そこから先はA社株は新規買いの対象にはなり得ません。
もし新規買いするのであれば、株価が25日移動平均線を超えて上昇トレンドになるのを待ってから実行します。
結局は、株価はイの水準からさらに50%近くも下落してしまいましたから、25日移動平均線を割り込んだ状態での新規買いをしなかったことにより、余計な損失を被ることを免れることができました。もちろん、イの水準から株価が反発して25日移動平均線を超えるという展開になった場合はそこで新規買いをすれば問題ありません。
25日移動平均線を下回った状態では一切新規買いしないと決めておけば、株価が1,200円になっても、1,000円になっても、700円になっても全く痛手を被ることはありません。
A社株を保有していない場合、逆張りの考え方であれば、一旦アまで株価が上昇してしまったものがイやウの水準にまで下がってきたことは「株価が割安になった」と捉えることになります。
したがって、イやウの時点で「ファンダメンタルに問題ないはずなのに明らかに株価は売られすぎで割安」と思って新規買いした逆張り派の個人投資家は大勢いたはずです。
上記(その1-1)で記したとおり、順張りの考え方でいけばウの箇所は保有株を速やかに売るタイミングであり、このタイミングで新規買いするという選択はありません。
しかし、逆張りの考え方であればアの高値から大きく株価が調整したウのタイミングは新規買いのポイントの1つとなり得ます。
ところが、ウで新規買いした後株価は50%近くも下がってしまいました。そして将来の業績悪化懸念が急速に浮上しています。(その1-2)と同様、大きな損失覚悟で売却するのか、多額の含み損を抱えて塩漬け覚悟で保有を続けるのかを判断しなければならない状況です。
今回のA社の例と同じようなことは結構頻繁に起きています。
でも、仮に上記のように逆張りをした結果大きな損失を被ったとしても、複数の銘柄に分散して投資していればリスクを小さくすることができます。例えば、1銘柄につき投資可能資金を最大5%までに抑えるようにすれば、株価急落銘柄を買った後にさらに大きな下落に巻き込まれたとしても、最悪で投資可能資金の5%を失うだけで済みます。5%程度なら、ワンチャンスで簡単に挽回可能です。
しかし本当に怖いのは、リーマン・ショックの時のように多くの銘柄の株価が軒並み急落するような局面です。もし順張りでなく逆張りのスタンスで投資をしているならば、ファンダメンタルの面で一見問題ないはずの銘柄の株価が次々と下落するのを目の当たりにして、「株価が明らかに割安」と判断し、数多くの銘柄を新規買いすることになるでしょう。
でも、リーマン・ショックのような暴落が起こった場合、割安と思って新規買いした銘柄のほぼすべてが、さらなる株価急落の憂き目に遭ってしまいます。
想像を絶するほどの株価急落に耐えられず投げ売りをしたならば全財産の30%とか50%が吹き飛ぶようなことも十分に起こり得ます。また売却できずに保有を続けていたなら、多額の含み損を抱えた塩漬け株のオンパレードになってしまいます。
リーマン・ショックの何が怖かったかといえば、それまで堅調だった世界景気が、株価の大暴落により一気に大不況になってしまったという点です。
株価急落局面で逆張りの新規買いを実行したときには確かにファンダメンタル面で問題なかったとしても、その後の株価大暴落という事象そのものが景気というファンダメンタルそのものを悪化させることもあります。こんな状況で逆張りをしていれば、破産に近い状況にまで追い込まれかねません。だからこそ筆者は「逆張り」をしないのです。
ここまでの3回の内容をまとめると、次のようになります。
筆者の周りの投資家のスタイルをみると、ファンダメンタル分析を徹底して実行している個人投資家は逆張りが多いように感じます。でもそれは、自分自身の行う企業分析が本当に正確で、株価が大きく下がったとき「株価は割安で早晩上昇する」という予測どおりにその後株価が上昇することが大多数、という優秀な人に限った話です。そして、彼らもマーケットの急変時などは、ファンダメンタル面の悪化がみられないとしても保有株を減らすなど守りの体制に入ります。逆張りであっても、守るべき時は守る姿勢が必要なのです。
もし、足元で株価が下落した銘柄を「明らかに割安」とみて買ったものの、そこからさらに大きく株価が下がって損をすることが多いのであれば、逆張りはおすすめできません。
確かに順張りは逆張りよりも高い株価で買うことになるケースが多いですが、明確な損切りルールを決めておけば、失敗したときの損失は最小限に抑えることができます。そして筆者が実践する株価トレンド分析と組み合わせれば、25日移動平均線を超えたら買い、割り込んだら売り、というように売買の判断基準が明確です。
個人投資家は「いかに大きく勝つか」よりも「いかに大きく負けないか」が重要です。そのためには順張りの投資スタイルが個人投資家には合っていると思っています。逆張りで損失続きという方は、ぜひ順張りという考え方を取り入れてみてください。
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