今回は、前回に引き続き、突然の債務超過転落を発表した江守グループホールディングス(9963)の事例研究です。
前回は、営業活動によるキャッシュ・フロー(以下「営業CF」)が5年間も続けてマイナスである事実が発見されたことまでご説明しました。
まず、キャッシュ・フロー計算書をみることで、その原因を探っていきましょう。
決算短信に掲載されているキャッシュ・フロー計算書をみると、営業CFの内訳が確認できます。これによると、毎年の営業CFがマイナスになっている理由は、売上債権が増加しているためであることが分かります(例えば平成26年3月期はマイナス15,828百万円、平成25年3月期はマイナス6,243百万円)。
そこで次に貸借対照表の売上債権(=「受取手形及び売掛金」)の金額を確認してみると、次のように確かに売上債権の金額が年々増加しています。
前回のコラムにて示したとおり、売上高も年々増加しています。売上が増えれば、それに伴って売上債権も増えていくのは自然なことです。
でも、売上の増加割合よりも売上債権の増加割合の方が高ければ、売上はあがっていても売掛金の回収が滞っているのではないかという疑問が沸いてきます。
そこで、「売上債権回転期間」という分析指標を使って、各年の推移を見ていくことにします。
売上債権回転期間は、受取手形や売掛金といった売上債権が回収されるまで、どのくらいの期間がかかっているかをみるものです。
売上債権回転期間は、以下の数式で計算することができます。
決算短信に記載されている売上高と売上債権(=「受取手形及び売掛金」)の数値を用いて、毎年の売上債権回転期間を計算すると、下記のとおりとなります。
これから読み取れるのは、売上債権回転期間は年々長期化の傾向にあるということです。つまり、回収できない売上債権の増加による不良債権化が進んでいる可能性が高いことが分かります。
仮に、平成26年3月期の売上債権回転期間が平成22年3月期と同じとすれば、あるべき売上債権は60,824百万円です。実際の売上債権はそれより約7,500百万円も多いですから、この分だけ売上債権が不良債権化している可能性があると判断できます。
上記の結果から導かれる事実は以下のとおりです。
これらの事実、特に売上債権回転期間が長くなっている傾向からみれば、上で説明した通り75億円程度の売上債権の不良債権化による損失発生の可能性は推測できます。しかし、今回の会社発表のような、462億円もの損失計上までは予測できません。
もう少し細部まで決算書の内容を分析すれば、多額の不良債権発生の兆候がより明らかになるかも知れません。でも、多くの個人投資家が深い会計知識や大きな手間をかけずにできる分析となると、本コラムで説明した程度のものだと思います。
それでも、営業CFがマイナスの状態が継続していること、売上債権回転期間が長期化していることから、将来多額の損失が生じる可能性を考慮して、無理に投資対象とする必要はないという判断を下すことは十分に可能です。そうすれば、江守グループホールディングスへの投資を避けられたでしょうし、仮に保有していたとしても、3月16日の発表より前に早期に売却することで、損失を小さく抑えることができたのではないでしょうか。
ところで、江守グループホールディングスが3月16日に発表した資料をみると、今回の巨額貸倒損失計上の理由の1つとして、「中国においては経済の減速傾向が続く中、中国子会社の主要得意先の所属する特定の業界(金属資源等)が金融引き締めの影響を受け、得意先の資金繰りの悪化が見られました。」という記述があります(出典:江守グループホールディングスHP 平成27年3月16日「貸倒引当金繰入額(特別損失)の計上に関するお知らせ」)。
この記述を素直に読むと、中国では経済の減速により景気が悪化しているのではないかという疑念が生じます。
とすれば、江守グループホールディングスにとどまらず、中国に大きく肩入れしている他の企業についても、同様に売上債権の回収不能による巨額の損失が生じる恐れがあるのではないかと個人的には感じてしまいます。
これについては個々人で判断するほかありませんが、筆者であれば、中国での取引の比率が高いような企業については、同様のリスクが存在する可能性があると推測し、投資対象から外すか、投資するにしても少ない額にとどめようと思います。
今回ご説明した分析手法は決算短信のみでできる簡単・単純なものですが、何かしら問題を抱えているか可能性の有無を判定する方法としては意外と効果を発揮してくれます。
特に黒字決算にもかかわらず営業CFのマイナスが続くようなケースは、今回の江守グループホールディングスのような回収不能となった売上債権の存在だけでなく、粉飾決算の兆候(売上の架空計上など)についてもある程度推測することができます。
もちろん、分析の結果、回収不能の売上債権の存在や粉飾決算の可能性が高いと判断できても、実際は何らそのような問題は生じていないこともあります。
決算書を用いた分析には自ずと限界もあります。全てのケースで明確に不良債権の存在や粉飾決算を見抜くことはできません。でも、分析の結果何かしら引っかかる点がある銘柄については無理に投資せず、投資対象から外すようにすれば無用なリスクを回避することができるのではないでしょうか。いうなれば、「疑わしきは投資せず」という姿勢です。
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足立武志
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株式等は株価(価格)の変動等により損失が生じるおそれがあります。上場投資信託(ETF)は連動対象となっている指数や指標等の変動等、上場投資証券(ETN)は連動対象となっている指数や指標等の変動等や発行体となる金融機関の信用力悪化等、上場不動産投資信託証券(REIT)は運用不動産の価格や収益力の変動等、ライツは転換後の価格や評価額の変動等により、損失が生じるおそれがあります。※ライツは上場および行使期間に定めがあり、当該期間内に行使しない場合には、投資金額を全額失うことがあります。
上場有価証券等のうち、レバレッジ型、インバース型のETF及びETN(※)のお取引にあたっては、以下の点にご留意ください。
※「上場有価証券等」には、特定の指標(以下、「原指数」といいます。)の日々の上昇率・下落率に連動し1日に一度価額が算出される上場投資信託(以下「ETF」といいます。)及び指数連動証券(以下、「ETN」といいます。)が含まれ、ETF及びETNの中には、原指数の日々の上昇率・下落率に一定の倍率を乗じて算出された数値を対象指数とするものがあります。このうち、倍率が+(プラス)1を超えるものを「レバレッジ型」といい、-(マイナス)のもの(マイナス1倍以内のものを含みます)を「インバース型」といいます。
信用取引は取引の対象となっている株式等の株価(価格)の変動等により損失が生じるおそれがあります。信用取引は差し入れた委託保証金を上回る金額の取引をおこなうことができるため、大きな損失が発生する可能性があります。その損失額は差し入れた委託保証金の額を上回るおそれがあります。
国内株式の委託手数料は「ゼロコース」「超割コース」「いちにち定額コース」の3コースから選択することができます。
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ゼロコースをご利用される場合には、当社のSORやRクロス(※2)の内容を十分ご理解のうえでその利用に同意いただく必要があります。
※1 SORとは、複数市場から指定条件に従って最良の市場を選択し、注文を執行する形態の注文です。
※2 「Rクロス」は、楽天証券が提供する社内取引システム(ダークプール(※3))です。
※3 ダークプールとは、証券会社が投資家同士の売買注文を付け合わせ、対当する注文があれば金融商品取引所の立会外市場(ToSTNeT)に発注を行い約定させるシステムをいいます。
〔ゼロコース(信用取引)〕
約定金額にかかわらず取引手数料は0円です。
但し、原則として当社が指定するSORのご利用が必須となります。(当社が指定する取引ツールや注文形態で発注する場合を除きます。)
〔超割コース(現物取引)〕
1回のお取引金額で手数料が決まります。
取引金額 取引手数料
5万円まで 55円(税込)
10万円まで 99円(税込)
20万円まで 115円(税込)
50万円まで 275円(税込)
100万円まで535円(税込)
150万円まで640円(税込)
3,000万円まで1,013円(税込)
3,000万円超 1,070円(税込)
〔超割コース(信用取引)〕
1回のお取引金額で手数料が決まります。
取引金額 取引手数料
10万円まで 99円(税込)
20万円まで 148円(税込)
50万円まで 198円(税込)
50万円超 385円(税込)
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〔超割コース 大口優遇(現物取引)〕
約定金額にかかわらず取引手数料は0円です。
〔超割コース 大口優遇(信用取引)〕
約定金額にかかわらず取引手数料は0円です。
〔いちにち定額コース〕
1日の取引金額合計(現物取引と信用取引合計)で手数料が決まります。
1日の取引金額合計 取引手数料
100万円まで0円
200万円まで 2,200円(税込)
300万円まで 3,300円(税込)
以降、100万円増えるごとに1,100円(税込)追加。
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