今回は前回の続きとして、自己株式処分の法的な意味合いや、自己株式処分による株価下落リスクへの対処法などをみていくことにしましょう。
なぜ自己株式を処分すると、1株当たり当期純利益が減少してしまうのでしょうか。それは、自己株式を取得した時点で、1株当たり当期純利益やROEの計算上、その自己株式は「存在しない」という扱いを受けているからです。
ところが、自己株式の処分により自社以外に株式が渡ることになると、存在しないはずだった自己株式が株式として「復活」するのです。
1株当たり当期純利益が改善されるのは、あくまでも自社が自己株式を所有している間だけです。
所有している自己株式を処分することにより、その株の所有者(=株主)が自社から自社以外へ変わります。その瞬間、1株当たり当期純利益を計算する際の発行済株式数に、処分した自己株式が加算されてしまうのです。
このようにして、自己株式の取得によって増加したはずの1株当たり当期純利益は、自己株式の処分によってもとに戻ってしまいます。
一方、取得した自己株式を消却した場合は、1株当たり当期純利益やROEへの影響はありません。そして、1株当たり当期純利益などの指標の改善効果を「確定」させる効果があるのです。
実は、法律上は「自己株式の処分」≒「増資」なのです。これは、会社法に書かれている増資と自己株式の処分についての条文を読んでみれば明らかです。会社法では、自己株式の処分について、増資と同じ手続きを要求しています。
したがって、自己株式の処分による株価への影響は、増資による株価への影響と同じ、と考えておけば間違いありません。それは、「株式価値の希薄化」です。
ですから、これまでに自己株式の処分を発表した会社の株価は、増資を発表した会社と同様、短期的には下落する傾向がみられます。前回のコラムで例示した日新製鋼もそうした株価の動きでした。
ただ、増資は単純に発行済み株式数が増加する一方、自己株式の処分は、1株当たり当期純利益計算上、自己株式の取得により減少した発行済株式数が元に戻るだけです。そのため、自己株式を取得する前と自己株式処分後とを比べた場合は、発行済み株式数は変化ないことになります。
ではここで、上場企業が行う自己株式の処分や消却の実態を見てみることしましょう。
現在は公表を取りやめてしまいましたが、東京証券取引所では、「自己株式の取得及び処理状況」というタイトルで、自己株式取得状況や自己株式処理状況の実績データを提供していました。
これをみると、平成23年の自己株式取得額は1兆6,558億円にのぼっています。対して
自己株式処理額は1兆7,806億円に達しています。
そして、自己株式処理状況は、さらに「(1)引き受ける者の募集による処理」「(2)合併、株式交換、会社分割に伴う移転」「(3)消却処分」の3つに分類されます。この3つの額は順に792億円、3,412億円、1兆3,601億円でした。
(3)の消却された額が最も大きいものの、(1)(2)を合わせると数千億円規模の金額があります。なお、「合併、株式交換、会社分割に伴う移転」は、M&Aや企業再編等により新株を発行する必要がある場合、新株に代えて自己株式を交付するケースを指します。自社以外に自己株式が渡ることに変わりはありませんから、(1)も(2)も、「自己株式の処分」とひとくくりでまとめてしまって問題ないでしょう。
自己株式の処分によって株価が下落してしまう可能性の高い企業はどのように見つければよいでしょうか。
注意が必要なケースは「自己株式の保有割合が高い」「増資等による資金調達ニーズが高い」の2つです。
自己株式の保有割合が高ければ、その大部分を処分したような場合には一気に株式の希薄化が生じます。
例えば、発行済み株式総数に占める自己株式の割合が20%であれば、この自己株式を全て処分した場合、1株当たり純利益計算上の発行済株式数は25%増加することになってしまいます。1株当たり当期純利益が大きく減少するため、株価へのマイナスの影響は避けられないでしょう。
発行済み株式総数に対してどれくらいの自己株式を保有しているかは、会社四季報の大株主欄を見れば分かります。
また、「増資等による資金調達ニーズが高い」とは、各企業のキャッシュ・フローの状況、積極的な投資ニーズの有無などで判断する必要があります。正確に把握することは難しいのですが、一般的には大規模な投資をあまり必要としないサービス業よりは、多額の設備投資を必要とする製造業の方が資金調達ニーズは高いと思われます。
さらには、過去に取得した自己株式を消却した実績があるかどうかも重要です。もし、過去に自己株式を消却したことがないのに自己株式は膨れ上がっている、という状態にあれば、将来その自己株式が処分される可能性は高くなります。
なお、もともと保有している自己株式がそれほど多くなければ、仮にその自己株式の処分がなされたとしても、株式の希薄化の影響はそれほど多くないため、心配する必要はありません。ただし自己株式処分と抱き合わせで増資を実施するケースも散見される点は注意が必要です。
自己株式の取得によってもたらされる効果として、1株当たり当期純利益やROEの改善などの他、市場に出回る株式数の減少による「需給関係の改善」があります。そのため、自己株式を処分した場合はこの逆の「需給関係悪化」というマイナス効果が生じます。
これについては自己株式をどのように処分するかにより、影響が異なります。
もし、資本提携先など、今後安定株主として自社の株式を継続的に保有してくれるような先に第三者割当を行うのであれば、需給関係の悪化を心配する必要はそれほどありません。
しかし、公募形式による自己株式の処分の場合は、広く様々な投資家に対して自社の株式が行き渡ることになりますから、需給関係の悪化に伴う株価の下押し圧力には十分に注意する必要があるといえます。
ちなみに、自己株式を消却した場合は、それが市場に出回ることは永遠になくなりますので、需給関係を悪化させることはありません。むしろ将来の需給関係悪化懸念を払しょくさせる材料として、株価にプラスに働く可能性があります。
これからは、自社株買いの実施を好感するだけではなく、その後の自己株式の行方についてもぜひ関心を持つようにしてください。
本資料は情報提供を目的としており、投資等の勧誘目的で作成したものではありません。お客様ご自身で投資の最終決定をおこなってください。本資料の内容は、弊社が信頼できると判断した情報源から入手・編集したものですが、その情報源の確実性まで保証するものではありません。なお、本資料の内容は、予告なしに変更することがあります。
足立武志
知って納得!株式投資で負けないための実践的基礎知識
株式投資がうまくいかない、という個人投資家の皆様へ。実践をベースにした「すぐに役立つ真の基礎知識」は、お客様の株式投資戦略に新たなヒントを提供。負けない、失敗しないためにはどのように行動すべきか、これから「株式投資」を始めようと考えている方、必見です。
株式等は株価(価格)の変動等により損失が生じるおそれがあります。上場投資信託(ETF)は連動対象となっている指数や指標等の変動等、上場投資証券(ETN)は連動対象となっている指数や指標等の変動等や発行体となる金融機関の信用力悪化等、上場不動産投資信託証券(REIT)は運用不動産の価格や収益力の変動等、ライツは転換後の価格や評価額の変動等により、損失が生じるおそれがあります。※ライツは上場および行使期間に定めがあり、当該期間内に行使しない場合には、投資金額を全額失うことがあります。
上場有価証券等のうち、レバレッジ型、インバース型のETF及びETN(※)のお取引にあたっては、以下の点にご留意ください。
※「上場有価証券等」には、特定の指標(以下、「原指数」といいます。)の日々の上昇率・下落率に連動し1日に一度価額が算出される上場投資信託(以下「ETF」といいます。)及び指数連動証券(以下、「ETN」といいます。)が含まれ、ETF及びETNの中には、原指数の日々の上昇率・下落率に一定の倍率を乗じて算出された数値を対象指数とするものがあります。このうち、倍率が+(プラス)1を超えるものを「レバレッジ型」といい、-(マイナス)のもの(マイナス1倍以内のものを含みます)を「インバース型」といいます。
信用取引は取引の対象となっている株式等の株価(価格)の変動等により損失が生じるおそれがあります。信用取引は差し入れた委託保証金を上回る金額の取引をおこなうことができるため、大きな損失が発生する可能性があります。その損失額は差し入れた委託保証金の額を上回るおそれがあります。
国内株式の委託手数料は「超割コース」「いちにち定額コース」の2コースから選択することができます。
〔超割コース(現物取引)〕
1回のお取引金額で手数料が決まります。
取引金額 取引手数料
5万円まで 55円(税込)
10万円まで 99円(税込)
20万円まで 115円(税込)
50万円まで 275円(税込)
100万円まで535円(税込)
150万円まで640円(税込)
3,000万円まで1,013円(税込)
3,000万円超 1,070円(税込)
〔超割コース(信用取引)〕
1回のお取引金額で手数料が決まります。
取引金額 取引手数料
10万円まで 99円(税込)
20万円まで 148円(税込)
50万円まで 198円(税込)
50万円超 385円(税込)
超割コース大口優遇の判定条件を達成すると、以下の優遇手数料が適用されます。大口優遇は一度条件を達成すると、3ヶ月間適用になります。詳しくは当社ウェブページをご参照ください。
〔超割コース 大口優遇(現物取引)〕
1回のお取引金額で手数料が決まります。
取引金額 取引手数料
10万円まで 0円
20万円まで110円(税込)
50万円まで 261円(税込)
100万円まで 468円(税込)
150万円まで559円(税込)
3,000万円まで 886円(税込)
3,000万円超936円(税込)
〔超割コース 大口優遇(信用取引)〕
約定金額にかかわらず取引手数料は0円です。
〔いちにち定額コース〕
1日の取引金額合計(現物取引と信用取引合計)で手数料が決まります。
1日の取引金額合計 取引手数料
100万円まで0円
200万円まで 2,200円(税込)
300万円まで 3,300円(税込)
以降、100万円増えるごとに1,100円(税込)追加。
※1日の取引金額合計は、前営業日の夜間取引と当日の日中取引を合算して計算いたします。
※一般信用取引における返済期日が当日の「いちにち信用取引」、および当社が別途指定する銘柄の手数料は0円です。これらのお取引は、いちにち定額コースの取引金額合計に含まれません。
(貸株サービスのみ)
(貸株サービス・信用貸株共通)