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第188回 ファンドマネージャーのホンネ

2013年1月11日

あけましておめでとうございます。本年も、ご愛読よろしくお願いいたします。

さて、今年も「インデックス投資ナイト」の季節がやって来た(今年は1月12日に開催)。これは、主にインデックス投資に関心のある投資家が集い、投資及び投資信託について語り合うイベントだが、例年満席で、特に今回は前売りチケットが即日完売だったらしい。

さて、このイベントの一つのコーナーとして、『ファンドマネージャーがホンネで語る運用業界』というタイトルのパネルディスカッションがあり、4人の運用業務経験者ないし現役ファンドマネージャーが登壇するのだが、その中に筆者も入っている。

先日、パネルディスカッションの進行台本兼質問リストが届いた。全質問について、筆者の(率直な)答えを書いてみよう。

実際のイベントでは、全ての質問をこなす時間はないだろうし、チケットを入手できなかった投資家も多かろうと思う。この際、私の回答分だけでもお届けしようと考えた。

質問と筆者の回答

パート1 ファンドマネージャーのお仕事とは?

ファンドマネージャーの仕事とはなにか?

質問 1 ファンドマネージャーの一日はどのような流れか?

正しくは、朝早く出社して、忙しそうに情報を集めて、適宜ミーティングなどをして、気合いを入れて寄り付きに臨むべきなのでしょう。金融、特に証券関係の仕事は、朝に強い人に向いています。筆者は強度の夜型なので、適性があるとはいえませんでした。

ただ、ファンドマネージャーの仕事は、自分の働きではなく、ポートフォリオが稼いでくれるので、「運用だけなら」何とかなります。

筆者の場合、遅刻しない程度の時間に出勤して、のんびり寄り付きを眺め、同僚たちの顔色を、少々申し訳ないのですが、主に批判的な観点から観察していました。市場の雰囲気の変化はないか、どこかにつけ込む隙はないかと、ヒントを探します。午前中は、あえて何もせずに、なるべくぼんやり考える時間にしていました。ニュースやファイナンスの論文を読むこともありましたが、仕事らしい仕事はしません。デスクの目立つところに「証券会社の電話は取り次がないで下さい」と書いたプレートを掲げていました。

11時過ぎると早めに昼を済ませて、午後は、主にパソコンに向かって、あれこれポートフォリオのアイデアを試します。どのようなアイデアで運用すると、ポートフォリオがどのように振る舞うのか、問題点はどこにあるのか、などが分かります。少し偉そうなことを言わせてもらうと、無数にテストした、実現には至らなかった条件の運用アイデアに関する知識と感覚の蓄積がファンドマネージャーとしての筆者の財産であり、アドバンテージだったと思います。

場が引けると、自分が運用しているポートフォリオの基準価額を頭の中で「予想」します。実際の数字と大きなズレがなければ、それでオッケーです。早めに帰って蕎麦屋あたりで飲み始めてもいいし、サラリーマンなのですから、だらだら会社に残って時間つぶしをするのも、時に一つの醍醐味ではあります。

運用の仕事で本当に忙しいのは、ファンドを立ち上げるときです。当初の設計とスタート時のポートフォリオの出来が悪いと後から延々と苦労することになるので、この時期だけはしばしば残業続きでコンピューターに向かうというような仕事ぶりになります。

質問 2 ベンチマークを超えるのは簡単か? 難しいか?

これは、ファイナンスの教師としては「難しい」と答えなければならない質問です。もちろん、ファンドマネージャーの実感としても「難しい」。新しい年度が始まるとき、「今年は勝てるか?」と自問すると、毎年自信がない、という状況の繰り返しでした。

ただ、私は年度単位で見て、TOPIXに負けた記憶がありません。運用アイデアとしては、いろいろな方法を使いましたが、それがその時々のマーケットに合っていたのは幸運でした。マルチファクターモデルでリスクをコントロールした運用なので、大勝ちすることはありませんが計算上の期待に合致する結果が多くの場合でたことはありがたかったと当時を振り返ってみて思います。

90年代後半以降は、自分でファンドマネージャーとして一本のファンドを担当することがなくなりましたが、「この年に運用していたら大負けしただろうな」と思ったり、「この年は、前年の負けを取り返しているだろう」思ったり、毎年の相場に様々な印象を持ちます。たとえば、1997年はかなり負けただろうとか、1999年に少し負けて、2000年に大きく勝っただろうなどと、思っていました。

質問 3 会社では主に何によって評価されるのか?

運用成績も人事評価の材料ではありますが、評価の材料としては「人間関係」や「仕事ぶり」の方が遙かに大きな要素だろうと思います。これは、外資系の会社でもそうです。

また、印象で恐縮ですが、概して言うなら、「良きサラリーマンは、センスのいいファンドマネージャーではない」ことが多いと思います。一種の職人であり転職旅ガラス的なビジネスマンだった私の場合、自分自身は出世競争にあまり関係がありませんでしたが、運用組織を傍観者的に見ていてそんな感じがしました。

中には、名前は挙げませんが、偉い人ほど大きな損を出したことがある、というようなマンガのような会社もありました。

大変なことは何か? 面白いことは何か?

質問 1 今までで、いちばんうれしかったこと、キツかったことは?

運用の仕事の喜びは、後でパフォーマンスを振り返ってみて、「顧客に損をさせなかったな。自分はまあまあの仕事をしたのではないか」というような「じんわりした」いい気持ちです。本来、地味な仕事なのだと思います。計算外の大儲けや大損は基本的にあってはいけません。

あと、顧客には申し訳ないと思いながらも、90年代初頭のバブル崩壊は「嬉しかった」。これは、日本の株価や地価が高すぎると1988年頃から言い続けてきた自分の意見の正しさが現実によって証明されたからです。

キツかったことは、何でしょうか。

幸い、私は、短期的にも自分の運用パフォーマンスで苦労したことがないのですが、日常的には、つまらない「会議」にでなければならないのが心身ともにキツかった。

運用会社は実に会議の多い組織です。しかし、会議でいい情報を得るとか、参考になるアイデアを得ることはほとんどありません。発言の大半の内容は事前に予想できるものです。眠気をこらえるのが大変ですし、現実に何度も眠りました。注意されて起こされたことも一度や二度ではありません。

質問 2 大暴落や大暴騰する日は運用をどうしているのか?

感覚的にいうと、「急流では、舵を大きく切らない方がいい」。また、もともと大きな変化に備えてポートフォリオのバランスを取っているので、あわてる必要がないことが程なく分かる場合がほとんどでした。

相場が大きく変化している間は、いくつかのタイプのポートフォリオのパフォーマンスがどう変化するか、具体的なポートフォリオについて(実際のものも架空のものも見ます)観察することを通じて、次のゲームプランを考えます。

ファンドマネージャーになりたての頃は、暴落を見て、「大変だ!」と思い、たぶん顔色も青ざめましたが、その後、一つには「ゲームは相対評価である」ということ、もう一つには「運用資金は、しょせん他人のお金であり、ゲームのチップのようなものだ」という本質を実感し、慌てなくなりました。

尚、「暴騰」は、周りの連中がウキウキして騒がしくなるので嫌いでした。

毎月積立で入金されるのがいいか、最初にまとまった資金があるのがいいか?

質問 1 資金流入と運用成績の関係はあるのか?

一般論として、資金の流出・流入はパフォーマンスを損なう原因になりやすい。

しかし、あえていうと、流入は資金配分を通じてポートフォリオのバランスを整えることが出来るし、「買う」という行為は相対的には気楽で気分がよいので、気分的に悪いものではありません。

他方、資金流出に対応するのは、殆どのファンドマネージャーがなにがしか苦痛なのではないかと思います。

質問 2 ファンドマネージャーは投資タイミングを読めるのか?

読めません! 運用会社でもチャートをにらんであれこれ考えている人がいますが、チャート分析は役に立ちませんし、「チャートを見て考えています」などと顧客に説明するわけにも行きません。

プロもアマも、予測の手法としてチャートを勉強することは時間の無駄であり、有害無益です。

パート2 運用業界が抱える問題点

投資信託市場が60兆円からずっと伸び悩んでいる原因について

質問 1 よい運用とはなにか? そのために必要なことは何か?

よい運用とは、理想的には、顧客の十分な理解を得た上で、顧客のためだけに最善を尽くして、内容的にも大きさの上でも意図されたリスクだけを取る運用です。

運用会社・販売会社の誠意と節度、十分なコミュニケーション、顧客の理解の三点が必要です。

質問 2 販売会社に要望したいことは? 投資家に要望したいことは?

販売会社に望みたいのは、顧客に(広い意味も含めて)嘘をつかないことと、できれば、代行手数料の水準をもっと下げさせて欲しい。

投資家に望みたいのは、「長期投資なのだから、長い目で見て下さい」というのは嘘で、運用内容を正しく理解して欲しいということですが、敢えてポイントを挙げると、意志決定問題における「事前」と「事後」の区別を正しく理解して欲しいということです。

質問 3 機関投資家のパッシブ運用傾倒による市場への影響

私はあまり心配していません。アクティブ運用のコストが十分下がるまで、幾らでも増やせばいい。

パッシブが増えすぎて株価に歪みが出来れば、これを利用したいと思う市場参加者が必ず現れます。人間の欲望とやる気を信じましょう。

毎月分配&通貨選択型投信への金融当局の規制について

質問 1 規制で解決できるのか?

根本的な解決は投資家が賢くなることですが、行動ファイナンス的に考えて、これは難しい。

通貨選択型については、そもそも商品として認めたのが間違いで、後からぐずぐず規制するというのは生産的ではないと思います。先ず、過去の行政の過ちを認めるべきでしょう。全てはそこから。

質問 2 販売側の知識は十分か? 投資家側の知識は十分か?

現実に売れているという事実自体が、少なくとも投資家側の知識が不十分であることの動かぬ証拠です。

販売側が、顧客に情報を「本来適切な形」で説明できるほど、運用内容を理解していないようにも思います。罪の意識があると販売しにくいから、適当に無知な方がいいセールスマンになれるのではないかと想像します。

質問 3 なぜ、キャピタルゲイン+インカムゲイン=トータルリターン が浸透しないのか?

行動ファイナンス的には、「メンタル・アカウンティング」、「双曲割引」、「代表制のヒューリスティックス」等のバイアスの存在が原因ということになります。

客の間違いに、売り手がつけ込んで儲けている現状ですが、これを変えようとする積極的なインセンティブを持つ主体がないことが、第二の理由です。

パート3 ファンドマネージャーから投資家へのアドバイス(10分)

リクエスト

最後に、ひとり一言ずつ、個人投資家へのアドバイスを。(中略)「投資家と運用会社がWin-Winになるための個人投資家へのアドバイス」を下さい。

具体的なアドバイスを一言いうなら、自分の買値に全く影響されないように意思決定し、行動して下さい、と申し上げたい。これは、プロでも十分に実現出来ない場合がある心得なのですが、重要で有益な原則です。

たとえば、最近の上げ相場で買値を回復したから持っているファンドを売ってしまう、というような行動はつまらない。自分の買値に関係なく、純粋な投資判断として「売った方がいい」と思ったときにのみ売るべきです。

皆様と、皆様のポートフォリオのご幸運を祈ります。


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