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第86回 バブル相場が佳境に入ってきた

2009年6月12日

バブル相場が佳境に入ってきた。この世界的なバブル(過剰流動性)相場を牽引しているのは米国の量的緩和策である。この政策はインフレを意図して行われており、ドルの大増刷によってリーマン・ショックがなかったかのような世界規模のバブル相場が展開されている。

実態経済までバブル(過剰流動性)が浸透してこないため、景気実感からいえば単に下がりすぎた相場(株)が上がっているだけのせいぜいミニバブル相場という解釈もあるが、世界のGDPの7%弱の財政出動と低金利でジャブジャブの量的緩和策が行われている現状は、100年に1回のバブル状況とみるのが正しいだろう。

2009年5月18日に米連邦準備制度理事会(FRB)が発表したマネーサプライ(通貨供給量)統計をみると、連銀によるドル発行(M1=現金通貨と預金通貨<普通預金・当座預金>を合計したもの)は年率15%弱で増えている。こうした余剰のドル資金が1日数百億円規模の余剰資金となり、株高・コモディティ高を引き起こしている。それはドルキャリートレードと呼ばれているが、パッシブ運用(インデックス連動型)主導の相場展開なので「流動性のない市場」ほどよく上がっている。しかし、すべての株式市場の方向を決めるのは米国株の動向である。

筆者は3月27日以降のレポートで何度か「4-6月期(2Q)にS&P500は960ポイントまで上昇する可能性が高い」と述べてきたが、6月11日の市場ではS&P500株価指数は7カ月ぶり高値である956.23まで上昇した。とりあえずの目標は達成したので、筆者はこの先の相場に対してはややディフェンシブな姿勢(ポジションを減らす方向)に転じるが、バブル相場というのは上昇相場の後半が値幅・スピードとも加速的に増幅してくるので、基本的にはテクニカル指標が反転するまでは相場についていくつもりである。

米S&P500株価指数(日足)と抵抗線

米S&P500株価指数(日足)と抵抗線
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ファンド・年金・中央銀行などの「ウエイト調整(アンダーウエイトの解消)」や「リバランス」という問題はまだ解消していない。信用パニックでドルに傾きすぎたポジション配分を通貨バスケット的な分散投資に振り分けなければならない事情を抱えている運用者も多い。株式市況の回復でファンド業界には新規資金が流入しており、市場はインデックスに追いつくように「買わざるを得ない人」ばかりになっているのである。ファンド筋のこうした事情が解消されるまで、いましばらく株式市場の下値は堅くなる。

FRBのバブル政策に対しては賛否両論いろいろあるが、とりあえず資本主義社会や目先の決済システムを維持するための必要悪といえるだろう。我々は100年に1度の危機と呼ばれる渦中にいるのである。米国が財政破綻問題(国債の格下げ懸念)や時価会計を放棄してまでも意図的にバブルを作っているのは、株価上昇こそ最大の景気対策だからだ。そして、それは現在のところうまくワークしている。(現在の未曾有の財政出動と量的緩和に代表される非伝統的な金融政策の是非は、10年後の歴史的評価を待たねばなるまい)

相場に対して慎重な姿勢を崩さないことで有名なモルガン・スタンレー・アジアのスティーブン・ローチ氏がインド経済に対して楽観的な見通しを示しているが、新興国の経済が概ね好調なのは理由がある。新興国の株式市場が欧米の株式市場より上昇しているのは、欧米の経済が100年に1回の不況によって「社会主義化」しているからだ。マネーは国家による市場介入を恐れる。AIGやクライスラー等の破綻処理方法を見れば明らかであろう。

その新興国の株式市場の急上昇で、「デカップリングシナリオ」が再び脚光を浴びているが、これはとんでもない勘違いであろう。新興国の経済や株式市場が回復しているのはドルの大増刷と米国の低金利のおかげである。財政規律にうるさい欧州の政策を評価し米国の量的緩和政策を非難するエコノミストも多いが、米国がドルの大増刷をやめて発行量を減らした場合、現在の世界経済はもたなくなるだろう。今後インフレから米国の短期金利が大幅に上昇した場合、新興国経済はまわっていかなくなる可能性が高い。LIBORと米2年国債の金利の動向は新興国経済にダイレクトに影響する。

先週来、「米利上げ観測」からドルが買われるという場面があったが、米金融機関の経営が盤石になるまでは、米国が利上げなどするわけがない。当局は長期金利をコントロールすることはできないが、FFレート(短期金利)はコントロールできる。銀行ビジネスの命綱、すなわち収益源は「長短金利差」である。目先、米国の利上げの可能性は、ドルが大暴落でもしない限りきわめて低いといえるだろう。おそらく1930年代がそうだったように、米国債も今しばらくは金余りの恩恵を受けることになろう。不景気の金余り状況を考えれば、米10年国債で4%超は一旦買い手が出てくる水準である。バブル相場が大きな転機を迎えるとすれば、米国の利上げが引き金になるのだろうが、年内の利上げの可能性は低いと思われる。

米10年国債利回り(日足)

米10年国債利回り(日足)
(出所:石原順、ブルームバーグ)

利上げもなく供給過剰になっているドルが買われるとしたら、それはドルの売られすぎによるショートカバーの局面だ。8月までにそういう局面が到来すると思われるが、ファンドや中央銀行のリバランスの現状を考えるともう少し先になるだろう。(ユーロの押し目ではこのところ中央銀行の買いが観測されている)

米大手投資銀行が6月9日のレポートで、目標値を1.45ドルとしてユーロ/ドルの買い推奨を行っている。筆者はあまり興味がないが、この会社が推奨するとユーロと原油は上がると言われている。その神話はともかく、シカゴ筋の話では、現在、「株買い・原油買い・ユーロ買い」をセットで行っているファンドが多い。そのため、どれか一つの市場が崩れるとスパイラルな下げにつながりやすいので、ユーロやコモディティ通貨の買い方は原油市場の反転に気をつけたい。

ドルを売るなら対円よりも対ユーロのほうがわかりやすい。ドル/円相場はドル安相場に素直に反応しない。ドル安になってもクロス円の上昇から焦点ボケしてしまう。加えて、米金利の急騰からPRDC債などの仕組債がらみのドル買いが出ていることで、やや難解な動きとなっている。

筆者は複雑なロジックで動く通貨は売買したくない。クロス円の買いが今は一番簡単だ。株価連動のバブル相場なのでクロス円相場も軒並み上がっているが、バルチック・ドライ指数の上昇や鉄鉱石貨物船需要の増加を背景に、引き続き豪ドル/円の押し目買いを取引のメインとしたい。FRBが量的緩和策でドルを大増刷してインフレ政策をとっている現在、コモディティ通貨の豪ドルはインフレヘッジとしても機能するだろう。

豪ドル/円(週足)と順張り(レンジ・ブレイクアウト)売買システムのシグナル

豪ドル/円(週足)と順張り(レンジ・ブレイクアウト)売買システムのシグナル
(出所:石原順、ブルームバーグ)

3月からの株の上昇は4カ月目に入る。筆者は株式市場のもう一段の上げを想定しているが、相場は何が起こるかわからない。一旦、相場反転となると上げ幅の2割~3割くらいは容易に下がるのがバブル相場の特徴だ。バブル相場は反転が恐いので、防御も考えなければならない。利が乗っている投資家は、「利食いの逆指し値」を上方向にずらしながら相場についていくのがよいだろう。

円相場の相場変動幅(ATR)の動向(データは2009年6月11日まで)

ドル/円およびクロス円市場は「円の上昇時に変動幅が拡大し、円の下落時に変動幅が縮小する」という市場の構造を持っている。(特に変動幅縮小の過程では円安になりやすいというのが円相場の特徴である)ドル/円やクロス円通貨は、ATR(アベレージトゥルーレンジ)が下がる過程で円安、上がる過程で円高となるパターンが多い。黄色の期間は円の売り放置やキャリー取引はリスクが高くなる。

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ポンド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ポンド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

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