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第204回 ファンドマネジャーのトレーニング・プログラムを考える

2013年9月6日

前回、「ファンドマネジャーになりたい人のための就職ガイド」を書いてみた。今回は、ファンドマネジャーを受け入れる側の立場から、ファンドマネジャーが働く部署(以下「運用部」とする)に配属された、あるいは、配属されることが決まった若手社員にどのようなトレーニングを施すのがいいかを考えてみたい。

他の部署(多くは調査部だろう)から、多少は基礎知識がある(アナリスト試験の一次試験に合格した)程度の知識の若手社員がいきなり運用部門に配属された場合に、彼(ないし彼女)をどのようにトレーニングしたらいいか、という現実によくありそうな条件で考えてみる。

実は、ファンドマネジャーの仕事自体は案外ごまかしがきく。運用を引き継いだポートフォリオがもともとバランスのいい良くできたポートフォリオであれば、仕事のポーズ程度の売買をしながら、大きくは変わっていないポートフォリオを持っていれば、1年半から2年くらいはそれなりのパフォーマンスが出る場合が多い。

とはいえ、職業倫理上は、自分で判断ができないファンドマネジャーにポートフォリオを引き継ぐわけにはいかない。他方、現実の運用会社では、時間の制約もある。例えば、半年程度でファンドの運用を後輩に引き継ぎたいとする場合、どうすればいいか。

個人投資家の皆様にとっても、運用のスキルアップのために、あるいは機関投資家の行動を分析する上で、お役に立つ内容ではないかと思う。

ファンドマネジャーが知るべき3つの事項

株式ポートフォリオを運用するファンドマネジャーの場合、是非知っておかなければならないポイントは、次の三点だろう。

  • (1)市場全体及び個別銘柄の株価の高・安の考え方、
  • (2)情報と株式リターンの関係、
  • (3)ポートフォリオのリスクと期待リターンのコントロールの仕方、だ。

これらをマスターすれば、自分の判断でポートフォリオを動かすことができるし、顧客や上司に対して運用の計画や結果について話をすることができる。

これらの三点に対応するトレーニングとして以下の三つの方策が思い浮かぶ。

トレーニングその1、PERを極める

先ず、先輩としては、理論株価の考え方を説明しなければなるまい。次に、その知識を前提に。個々の銘柄のPERについて徹底的に議論するといい。

たとえば、同じ業界に属するA社とB社のPERを見て、違いの理由を考えさせる。この場合、PER計算のもとになる利益の信憑性や継続性、リスク要因などについて把握する必要があるし、もちろん、将来の利益成長見通しについて考えなければならない。

実際にこのように後輩をトレーニングしようとするファンドマネジャーのために、また、読者がファンドマネジャーの能力を買い被らないようにご注意申し上げておくが、将来の成長性を正確に評価できるように後輩を鍛えることよりも、成長性の評価がいかに覚束ないものであるかいうことを理解且つ実感させることと、その覚束ない評価を前提として運用ゲームを戦うにはどうしたらいいかを考えさせることが重要だ。

理論株価の仕組みを考えた場合に、PERは必ずしも正確な指標ではない。しかし、もっともポピュラーな株価判断指標であり、有用性・実用性・通用性を総合的に見た場合に、PERをはっきり超える指標が見つからないのも、また現実だ。議論の手掛かりとしては十分だろう。特に、個々の企業の「利益の質」について具体的に論じる必要がある点で、トレーニングとはいうものの、教える側でも相当の苦労が要る。

トレーニングその2、情報としての「利益予想の変化」のケースを見る

次に、情報と株価の関係に関するレッスンだ。

この場合、情報を「利益予想の変化」に絞って、株式リターンの変化(大まかには株価の変化)との関係を観察させることが役に立つ。

個々の銘柄に関して、厳密には株式のリターンの変動要因、もっと直感的にいうと株価変動の要因として、最大のものは「利益予想の変化」だ。

株価はあくまでも将来の予想に基づいて現在の価値を評価する。「過去の実績」となってしまった前期の決算と最新の利益予想とを比較するのではなく、「直前の利益予想」と「最新の利益予想」のギャップこそが、株価に直接的な影響を与える最重要情報だ。事前に予期されていなかった利益予想の上方修正はほぼ必ず株価の上昇につながり、同様に下方修正は株価下落につながる。

たとえば、ファンドマネジャーに育てるべき若手に、次のような作業を指示するといい。

朝(もちろん前場が始まる前に)、日経新聞の朝刊の決算短信欄をチェックする。すると、前日の決算発表ないしは利益予想の修正が載っている。この数字を、「東洋経済会社四季報」ないし「日経会社情報」に載っている利益予想の数字と比較して、予想の変化でインパクトのありそうなものをピック・アップする。注目した銘柄に関して報告し、その銘柄のその後の株価の動きをチェックする。そして、その後の株価の動きについて、観察と考えた結果を報告させる。

利益予想にインパクトがあると思われる変化があった銘柄に関しては、数ヶ月程度その後の展開を追ってみる価値がある。多くのケースで、利益予想の上方修正があった銘柄は、その情報発表の前後に株価が上昇するはずだ。だが、上方修正が分かった後に買っても儲かるかどうかはケース・バイ・ケースだ。

「情報」を見てからアクションを起こしても儲けられる(ファンドマネジャーの場合、ベンチマークよりも高いリターンが得られる)なら、このチェックには大いに意味がある。この場合、意味がある銘柄は、情報に対して株価の変化が遅れる銘柄だ。そういった銘柄の属性はどのようなものだろうか。

また、過去の「情報」の変化と、新しい情報変化に対する反応とに関係はないかについても調べてみる価値がある。

後輩の指導と違って、読者に対してはセンスや理解を試す必要はないので、大まかな答えをお伝えしよう。

先ず、時価総額が小さく、アナリストのカバーを外れている、「注目度の低い会社」は、情報に対して株価の反応が遅れることが多い。傾向として、カバーするアナリストが多い有名な会社よりも、株価の反応が遅い傾向がある。

また、利益予想の上方修正が、何回目なのかも重要な要素だ。学術的な研究では、利益予想の変化には、上方修正の後にはまた上昇修正が続きやすい「利益予想のトレンド効果」があることが知られている。たとえば、純利益が一〇〇億円の会社に何かの理由があって、今期の純利益が二〇〇億円になるとした場合に、利益予想を発表する経営者は、いきなり二〇〇億円という数字を出すことに自信が持てないケースが多い。あるいは、そもそも想像力がついて行かない。一度上方修正に転じた会社の次の利益予想が、さらに上方修正される「確率」が高いことは想像に難くない。

それでは、利益予想の上方修正に対する投資家側の反応はどうか。これは、ケース・バイ・ケースなのだが、大多数の投資家の大まかな心理的傾向をいうと、初回の修正では自信を持てないが(株価の反応は遅れる)、同方向に二度目、三度目の修正があると自信が強化される(一回目の分も含めて株価が十分反応する)。さらに、言うならば、同方向の利益予想の修正が続くと、また同じ方向の修正が続くのではないかという期待が形成されやすい(すると、株価は過剰反応して、行き過ぎる場合が多い)。

個人投資家が注目しやすい利益の上方修正についていうなら、注目度の低い会社の上方修正には株価の反応が遅れることがあるし、最初の上方修正は過小評価されていて株価の反応が不十分である可能性が大きい。また、三回、四回と連続して続いた上方修正に対しては、株価の上昇が行き過ぎている可能性が大きいので、注意が必要だ。

新人ファンドマネジャーがこうした機微をどう感じ取るのかは、その時の相場の展開によっても違うだろうし、本人の資質によっても差が出るだろうが、何はともあれ、「情報」と「反応」のケースを数多く見ることが有効な経験だ。ファンドマネジャーは、自分の思考と経験を通じて、自分の理解を深めて、運用ゲームを戦うためのゲーム・プランを作っていく以外に有効な仕事の方法がない。先輩にできることは、そのために有効な情報に早く注目させてやるくらいのことだ。

とはいえ、先輩ファンドマネジャーには、後輩に教えるべき技術的な内容が相当にあるので、心配には及ばない。後輩が、銘柄の評価や情報と株価の関係について一家言持つようになったとしても、まだまだ彼(彼女)は、ファンドマネジャーとしては「勘のいい素人」程度の存在に過ぎない。

トレーニングその3、ポートフォリオのコントロール

ファンドマネジャーがプロとしての仕事を果たして生き残っていくためには、自分のポートフォリオのリスクと期待リターンとのコントロールができなければならない。

プロのファンドマネジャーが運用するポートフォリオは、少なくとも数十銘柄に分散投資されている。そのポートフォリオの状態を把握し、自分の意図に従ってこれをコントロールし、顧客に対して説明ができる運用をするためには、マルチファクターモデルと称されるツールを使いこなすことが必要だ。

マルチファクターモデルとは、モダン・ポートフォリオ理論が全盛期だった一九七〇年代に、米国のバー・ローゼンバーグ氏らが研究の副産物として実用化した統計モデルだが、ポートフォリオのリスクを数十のファクター(銘柄の一般的な属性や業種など)で説明するソフトウェアだ。現在もバーラ(BARRA)モデルが運用業界のデファクト・スタンダードだが、バーラ・モデル以外のポートフォリオ分析ツールもある。但し、何れもプロ用で、データ代を含めて、毎月の使用料が数十万円単位になるのが難点だ。

マルチファクターモデルで何ができるか。たとえば、TOPIXをベンチマークとして運用している日本株のファンドマネジャーのポートフォリオが、TOPIXに対してどのような相対的なリスク(「推定トラッキングエラー」と呼ばれる)を持っているかを計算できる。

ここで、銘柄毎あるいは、銘柄の属性である「ファクター」に対して期待されるアクティブ・リターン(ベンチマークを上回るリターン)を与えると、ベンチマークに対するリスクと期待アクティブ・リターンとの関係を最適化するポートフォリオを計算することができる。条件を適切に与えることができると、現実的で且つ最適なポートフォリオを直ちに計算することができるし、現実のポートフォリオが観察できれば、その実質的な含意を逆算することもできる。

多くの個人投資家は次のレベルまで考える必要はないが、プロのファンドマネジャーを目指す若者にはもう少し頑張って貰おう。

例えば、トヨタ自動車の時価総額は約21兆5千億円あり、東証一部全体の時価総額(約409兆円)の約4.4%だ(9月4日現在)。それでは、ファンドマネジャーであるあなたは、トヨタを自分のファンドの何%のウェイトで持つか。

この数字の根拠を具体的に説明できないファンドマネジャーは、筆者から見て「素人」だ。「1%オーバーウェイト(アンダーウェイト)して…」という説明は、事実を説明しているだけで、数字の根拠の説明になっていない。彼(彼女)は「何となく」運用らしきことをしているだけだ。年金基金等、お金を任せる側の人は、遠慮無く解約していい。お金を払ってまで資金運用を任せる相手ではない。

トヨタへの投資ウェイトは、ポートフォリオのリスクに対してトヨタのウェイトの増減がどのような影響を及ぼしているかと、トヨタに対してどのような期待リターンを想定しているかの、リスクとリターンとのバランスから決定される。特にこのリスクを暗算で計算することは難しいので、ツールとしてのマルチファクターモデルが必要になる。

もちろん、ポートフォリオ全体として、ベンチマークに対してどのくらいの大きさの相対的なリスクを持っているかを把握することはファンドマネジャーにとって最重要な計数管理だし、そのリスクの要因の内訳を把握しておくことも重要だ。

マルチファクターモデルの最も重要な機能は、ポートフォリオのリスクを把握する「リスク分析」の機能だが、この機能に付随して、個々の銘柄に期待リターンを与えた場合に最適な投資ウェイトを計算する「最適化」の機能及び、ポートフォリオのリターンを(主としてベンチマークに対して)説明する「パフォーマンス分析」を使いこなすことが必要だ。

これら三つの機能を使いこなすことは、プロとしてのファンドマネジャーには是非とも必要な能力なので、先輩は、後輩がそうできるようにサポートすべきだ。

率直にいうと、マルチファクターモデルを使いこなせないファンドマネジャーでも、それらしいポートフォリオを持ってなんとなく運用することができる。それでベンチマークに勝つことができるか否かは概ね五分五分(厳密にはもう少し悪いが)だ。しかし、自分が預かっているポートフォリオの実質的なリスクを具体的に把握せず、その要因も説明できず、従って、自分が持っているポートフォリオの根拠について説明できないファンドマネジャーは、勘を頼りに運用している個人投資家と大差ない。

大きな資金を運用するプロのポートフォリオでは、銘柄の選択よりも、それぞれの銘柄への投資ウェイトのコントロールの方が問題だ。そのためには、マルチファクターモデルを使いこなす必要がある。

近年、マルチファクターモデルは、顧客向けの説明のためにだけ使われてリスク管理や顧客向けの説明のためにだけ使われていて、運用者自身が使いこなしていないケースが多いと聞くが、これではいけない。

プロとしてのファンドマネジャーのスキルに関しては、ポートフォリオのコントロールの仕方についてが、最も教える事が多く、後輩のその後にとって効果が大きい。


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