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第196回 日本版ISAでの正しい運用法

2013年5月10日

日本版ISA口座獲得戦線が既にスタート

来年1月からスタートする予定の、いわゆる「日本版ISA」での口座獲得競争が既に始まっている。現在は、口座開設申し込み予約の獲得競争という段階だが、金融機関どうしの競争は既にかなりの熱を帯びている。

金融機関側から見ると、日本版ISAの口座から発生する利益は必ずしも魅力的なものではないかも知れない。

顧客一人一年間に100万円までという金額は、特に対面営業のコストが掛かる金融機関にとっては必ずしも大きくない。5年間続けて口座を獲得できたとしても、一人から5百万円が限界だ。

また、顧客が資産を一度売却してしまうと、その投資対象の投資元本分だけ非課税メリットが適用される枠が減ってしまうので、証券業界風にいうと「回転が効かない」ことも金融機関には不利だ。

日本版ISAの口座の中では、5年の期間内に何度も売買手数料を取ることができないのだ。証券会社等のセールスマンによっては、日本版ISA口座で顧客の資金が寝てしまうことで、かえって手数料が減るのではないかと心配する向きがあってもおかしくない。

加えて、制度に対応するためには、小さくないシステム・コスト、事務コストが掛かる。

しかし、それでも金融機関が日本版ISA口座の獲得に熱心なのは、日本版ISAの口座獲得が、新規の顧客獲得と、ISA口座以外での取引につながるという期待感があるからだろう。もちろん、金融機関が根強く持っている「大きいことは、いいことだ」という規模の拡大を目指すDNAと、横並び意識、ライバル意識が影響している面もあるだろう。

運用内容は論理的に決まる

視点を投資家側に変えて、日本版ISAの使い方を考えてみよう。個人にとって、日本版ISAはどのように使うのが、最も賢いやり方なのだろうか。

この問いに対する答は、実は、案外簡単に出る。しかも、論理的に前提条件を追うだけで明確に答えが出てしまうのだ。

「投資家側から見た」日本版ISAでの正しい運用方法を四原則の形でまとめてみた。

日本版ISA投資の四原則

  • 原則その一、日本版ISA枠を最大限に使う
  • 原則その二、日本版ISAではリターンの高い資産の運用に利用する
  • 原則その三、日本版ISAではバランス良く分散投資した商品を選ぶ
  • 原則その四、日本版ISAは低コストで運用する

原則その一、日本版ISA枠を最大限に使う

日本版ISAは、現在、株式や株式投信などへの投資に適用されている優遇税率(10%)が本則の税率(20%)に戻ることに伴う、税制上のいわばバーター取引的な措置として導入される優遇制度だ。この「取引」が、得なのか、損なのかは個人の資金量や運用内容によって決まる。率直にいって、運用金額が大きな投資家にとっては損だろう。

しかし、これまでの優遇措置を失う「損」は既に発生することが決まってしまった「サンク・コスト(埋没費用)」であり、取り戻すことが出来ない。投資家に出来ることは、将来に向けて利用可能な条件を前提に、これからの損得を最適化することだけだ。

すると、何はともあれ、日本版ISAで使える税制上の優遇枠を使わないのは「もったいない」という結論になる。「日本版ISAは、ご利用されないと、もったいないですよ」というセールス・トークは、顧客の立場から見ても正しいアドバイスだ。

日本版ISAの枠を最大限に使うという意味では、通貨選択型を含めた毎月分配型投信など高分配の商品は、高分配によって元本の成長が阻害され、その分、税制優遇された形で運用ができないので不適切だということになる。

また、投資できる資金が既に十分あるなら、優遇期間をフルに使えなくなるので、資金が十分ある場合は、積立投資も不適切だ。(注;ドルコスト平均法が有利だというのは誤解だ。「気休め」以上の意味はない)。

原則その二、日本版ISAはリターンの高い資産の運用に利用する

日本版ISAは、運用益に対する課税を免除する優遇措置だ。従って、自分の運用資産全体の中で、リターンが高いと思う運用資産の運用を日本版ISAの運用に割り当てるのが正しい。

例えば、株式で500万円、債券・預金で500万円運用しようとしている投資家がいるとして、株式の方が期待されるリターンが高いと思うなら、日本版ISAの口座には、株式の運用を集中させるのが正しい。

確定拠出年金と同様だが、日本版ISAの運用にあって、バランス・ファンド(株式、債券など複数のアセット・クラスに投資するファンド)は適切な選択肢ではない。

原則その三、日本版ISAではバランス良く分散投資した商品を選ぶ

現在の日本版ISAの制度設計では、売却してしまった資金を再投資して再び税制優遇の対象にして貰うことができない。したがって、長期間持ち続けることが可能なものを投資対象に選ぶことが望ましい。

仮に、株式の個別銘柄に投資しているとすると、5年間の間には、株価が上がり過ぎだと判断したり、業績見通しが悪化したりした場合など、「売りたい」と思うようになる時が訪れる公算が大きい。しかし、途中で売却してしまうと、それ以後の期間について、税制優遇される金額が小さくなってしまう。

同様な理由で、株式に投資する投資信託でも、特定の業種やテーマなどに特化したものは日本版ISAでの運用には適さない。

また、為替レートに関する判断にも同様のことがいえるので、外貨預金や外国債券も適切な運用対象ではない。

原則その四、日本版ISAは低コストで運用しよう

日本版ISAに限らないが、投資家から見て手数料は「確実な(リスク・ゼロの)マイナス・リターンだ」。

日本版ISAの場合は、長期で持ち続ける投資を行うべきなので、投資信託でいうと信託報酬に該当する継続的に掛かる手数料の大きな運用商品ははっきり損だ。

この点は、利用者と金融機関で利害が対立するポイントだが、利用者の立場から考えると、株式投信でもアクティブ・ファンドは手数料が高すぎてだめだし、個人年金保険も実質的な手数料が高いので避けた方がいい。

日本版ISAの口座は、運用商品に必要十分な選択肢があって、手数料コストが小さな金融機関で開くのがいい。

投資家の立場に立った運用の例

以上の四原則から考えると、日本版ISAにあって、顧客側では、多くのケースでベストな運用は、内外の株式のインデックス・ファンドだろう。長期的に持ち続けるに際して少しでもリスクを落とすためには、日本株だけでなく、外国株のインデックス・ファンドにも分散投資する方がいい。

例えば、一年間に100万円の日本版ISA投資枠を、日本株のインデックス・ファンド(TOPIXに連動するもの)に50万円、先進国株のインデックス・ファンド(MSCI-KOKUSAI)に25万円、新興国のインデックス・ファンド(MSCI-EM)に25万円投資する、といった運用が、利用者側から見るとベストなものになる可能性が大きい。

そして、金融機関には厳しいが、特に日本株では信託報酬が安いETF(上場型投資信託)を使った運用が最適だ。

もちろん、日本版ISAでの投資以外の資産運用の内容は人によって異なるだろうが、「日本版ISAを自分の運用の一部分として位置づけて、自分の運用の全体が最適になるように運用を調整する」という考え方が最適な運用への道だ。

前記の組み合わせは、日本版ISAの投資枠以上の資金を持った投資家に対して、最大公約数的な「長く持っていることが出来るポートフォリオ」の例として考えて見たものだ。

預金や債券での安全を志向する運用、あるいは、個別株への投資や、儲けを狙った外貨相場への参加などは、日本版ISA口座以外の場所に置いた資金で行うといい。この場合も、あくまでも「自分の運用資産の合計」を最適化するという考え方が基本になる。

尚、かなりの運用資金量があって大きなリスクを取ることが出来る投資家向けだが、先の最適解をブレークする可能性のある運用が一つあるのでお伝えしておこう。

それは、レバレッジの掛かったブル型ファンドだ。この運用が上手く行く場合は、年間100万円の枠が実質2倍、3倍になる。しかし、5年間じっと持ち続けるには、投資家側で、相当の胆力が要る。率直にいって一般向けではないので、よく考えた上で実行して欲しい。


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