9月、10月は仕込み場

 前回のレポートで<SQという魔物>という題でSQ制度の問題点とSQ手前に株価を激しく動かされる傾向があることを指摘しました。日経平均は9月9日には何と1日で1,343円という21年ぶりの上昇となったわけですが、これこそまさにSQめがけて今度は強引な<買い仕掛け>が起こったわけです。何故これほど相場が激しく動くか不思議ではないですか? あなたは本当に自然に、そして公明正大に相場が動いていると思うのですか? こんな平時に21年ぶりの上げ幅ですよ、売買代金は通常ペースより少し多かった3兆円強に過ぎなかったのです。明らかにSQに向けた強引に相場を動かす力が働いていたことは疑いないでしょう。羊のように当局や一般マスコミの教科書通りの解説で納得していては、あなたの財産は吸い上げられる一方になってしまうでしょう。相場の動きの中には表も裏も存在しているのです。

 日本の株式市場がSQという先物制度で大きく動かされていることはやむを得ないこととして、それでもこの低金利と根本的な上昇相場の中、株式投資を積極的に行っていくべきであることは明らかです。かえってヘッジファンドに相場を荒らされて、日本株が安くなったのであれば、投資家としては<これぞ好機>と捉えて株式投資を拡大させていくようなしたたかさが必要です。第一、ここの大変動を正当化するほどの劇的な変化は日本企業には起こっていません。今回中国発の景気失速懸念が主な株安の要因ですが、新興国や資源国のように中国経済に死活的に依存している経済であれば別ですが、日本の場合はそれほど大きく中国に経済を依存しているわけではありません。

 相場は心理が左右してきますので、相場が今回のように大きく揺れるとどうしても不安になってしまいます。ですから大きく動いたのは、超高速取引やSQという先物制度を利用したヘッジファンドが相場を必要以上にかく乱させているだけと、割り切って考え、むしろ日本企業が現在どのような状態にあって、株価が安いのかどうかを冷静に分析すべきでしょう。

 まず日本株は従来指摘してきたように日経平均が2万円に達していても、全く日本では過熱相場になっていたわけではありません。あなたの周りの人達を見てください、株式投資に熱を入れて熱くなっていた人がどれだけいたというのです。日本全体株ブームなどということは決して起きてなく、過熱感などありませんでした。相場が過熱していなかったということは大きな下げも続かないということです、今回の下げも一時的な調整と捉えるべきでしょう。日本の株式市場は中国上海市場のように大学生の3分の1までが株式投資にまい進していたという過熱状態とは全く違っています。 

 日経平均が9月8日の1万7,427円にまで落ちた時PERはついに14倍台を割れました。日本の1980年代後半バブル時のPERは60-80倍台、2000年のインターネットバブル時は100倍台にまで急騰していたのです。この時にまで上昇しているのであれば株価は現在の5倍から8倍ではないですか。また配当利回りを考えてください、例えばキャノンのような優良株でさえこの水準では配当利回りが4%を超えてきているのです。この下げで配当利回り3-4%の株が続出してきました。不動産投資信託であるREITの配当利回りも4%を超えてきています。日本ではまだまだ低金利が続くわけです、金利を上昇させようとする米国とは全く違う情勢です、こんな利回りがいいのに何故日本人がほとんど利息も付かず、1年定期でわずか0.025%などという低金利に甘んじているのですか、日本人の資産運用が余りにバランス感覚を欠いていると思いませんか。

 しかもこれら日本の上場企業は従来よりも盤石な財務体質を有しているのです。上場企業のほぼ半分は実質無借金です。その手元資金は100兆円を超えています。企業はこの株安を好機と捉えてかつてないほどの自社株買いを発表しています。8月の自社株買いは3,150億円となりこれは前年同月比6倍の水準になっているのです。如何に日本の企業は自社の先行きについて自信を持っているかがわかります。

 また日本の企業は年々筋肉質になっていく一方なのです。売上高に占める損益分岐点をみると今や日本企業は71.8となって売り上げが7割に落ちても利益を得る体質にまで改革されているのです。このような強靭な企業群が日本企業であり、世界を見渡しても増益率が20%を超える国は日本以外にありません。

 また、アベノミクスの最も大事な戦略は株高、円安への誘導ということを忘れてはなりません。安倍内閣がこれだけ安定しているのも経済を回復させることに成功したからですが、その中心的な政策は金融の爆発的な緩和であり、その恩恵で株高、円安が生じてきたわけで、安倍政権としてこの株高、円安路線の放棄はあり得ないのです。中国発の経済混乱が今後拡大したとしてもその余波として商品価格が下がってきます。現在でも中国経済の失速懸念から原油や銅や鉄鉱石、アルミなどあらゆる資源価格が下げてきており、更に直近では穀物価格の値段まで下がってきているのです。当然、商品価格の低下から日本人の購買力は増してきます。更にインフレに対する懸念が薄れますから追加的な金融緩和が十分可能になるのです。既に10月にも日銀が追加緩和に踏み切るという説も大きくなってきました。

 決して忘れてはならないことは追加緩和を行っていない今でも日銀は年間80兆円もの国債を購入し続けているという事実です。日本では相変わらず怒涛のような金融緩和が続けられているのです。溢れ出す資金は何処にいくのですか? 世界で最も安定して企業業績もいい、日本株に再び物色の手が飛んでくることは必至でしょう。また日銀や年金基金の買いも継続的に続くのです。更に11月には郵政3社が上場になりますが、今後ゆうちょ銀行やかんぽ生命が株式投資を拡大させることは必至です。

 相場の世界をみているとどうしても日々一喜一憂してしまいます。そして昨今のような激しい動きと共に自分の持ち株が下がってしまえば投資意欲は萎えるでしょう。そして朝倉慶が超高速取引やSQの弊害を指摘すれば余計に不安になるかもしれません。

 しかし投資はそのようなときこそ冷静に、しかも混乱期こそチャンスと捉えるべきなのです。相場の世界、投資の世界は通常の世界や感覚とは別の次元に存在しているのです。<人の行く裏に道あり花の山>投資の世界の勝者になろうとすれば、人が委縮したとき、人が恐れている時こそ果敢に出動すべきなのです。この9月10月という秋は季節的にも相場が荒れる傾向があります。しかしそれは最も投資に適した時期でもあるということなのです。