株売却ブーム

 日本人は投資に腹が据わっていないで、直ぐに売却してしまうので、投資の利益が上がらないことを指摘しました。実際日本人は余りに投資を恐れすぎますし、実は日本の個人投資家は株を一貫して売却し続けているのです。拙著やレポートで何度も指摘し続けているのですが、日本の個人投資家の<株売却ブーム>は止まることがありません。

 日本は<株ブーム>などではなくて<株売却ブーム>などと言っているのは朝倉慶ぐらいですが、現実の数字を見ればそのことははっきりしています。日本人は極度の株嫌い、ほとんど病気と言っていいほどの株アレルギーを持っています。だって預金金利を見てください、1年物定期預金の金利は0.025%ですよ、このようなものに何故資金を寝かせておくのでしょうか、キヤノンだってNTTだって、みずほフィナンシャルだって、三井物産だって、日本を代表するような企業が2.7%から4%近い配当を年々行っているのではありませんか、普通は世の中が現在のような異様な低金利になれば、資産運用として有名企業の株式の配当を狙って株購入が盛り上がるのが当然と思いますが、日本では一向にそのような傾向が出てきません。日本人は株を売り続けています。

 第二次世界大戦後、焼け野原になった日本の復興において、日本企業がゼロから発展する段階でサポートしてきたのは多くの日本の個人投資家でした。積極的に企業の株式を持ち、企業の資金繰りを株購入という形で支えてきたのです。また当時の銀行や生損保なども日本企業の株式を積極的に持ち合うことによってその成長を支えてきたのです。町工場だったソニーや当時のナショナル(松下)などを支えてきたのは個人投資家やベンチャー精神に富んだ当時の日本の民間銀行だったのです。

 終戦後株式市場が開く1950年当時は個人がほとんど日本企業の大株主であって、日本企業の株式の7割までも、個人投資家が保有していたのです。また銀行や生損保などの機関投資家もこのころから積極的に株式の持ち合いに入って1980年代後半のバブル期には持ち合い株は日本企業の発行株数の5割にも及んでいたのです。かように日本では株式投資が個人サイドでも銀行や生損保など機関投資家サイドでも活発化していました。それらの投資は戦後1945年から1990年まで日本の高度成長の発展期においては余りにうまく行きすぎて巨額の利益をもたらしたのです。これが日本の株と土地の永遠の上昇神話を作り出してしまい結果的に1980年代後半のバブル発生に至ったわけです。

 バブル期を転機として株式市場の状況は180度一変したのです。株暴落で大きな損失を被った日本の個人投資家や、株および土地の暴落によって財務体質が痛み、ついには破たんの憂き目にあってしまった銀行や生損保も続出したのです。バブル期の1989年12月末の3万8,915円をピークにしてその後2008年10月の7,000円まで日経平均は下げ続け、やっと本格的な相場が始まったのが2012年11月の民主党野田首相の解散宣言からでした。やはり20年以上にわたる株式市場の歴史的な低迷は多くの日本人に株は怖い、株はわからないとの考えを深く植え付けてしまったと思われます。完全にこれが日本人全体の株式投資に対するトラウマになっています。

 しかしその結果として、日本の個人投資家が株を売り続ける姿勢が一向に変わらないのは残念なことでもあります。日本の個人投資家は1989年末のバブル崩壊後既に50兆円以上の日本株を売却し続けていますし、アベノミクスが始まった2012年から見ても、この上昇過程において2012年は1兆9,000億円、2013年は8兆7,000億円、2014年は3兆6,000億円、そして今年は8月第1週までに4兆3,000億円も売り越しているのです。まさに個人投資家は株が上がれば確実に売り続けるというわけで、株に対してのアレルギーはとどまることがないのです。その結果として個人投資家の日本における株式保有比率は年々下げ続ける一方で2015年3月には17.3%まで下がってしまいました。終戦後の70%、バブル時の33%から見れば格段の低下です。昨今の個人投資家のスタンスは株が大きく下げれば買うが、その後上げれば即売却というスタンスです。個人投資家は株式投資は短期売買で基本的に日本株の上昇を信用していませんので長期保有は避けています。短期売買に徹していないと危ないというおっかなびっくりな投資姿勢を変えることができません。一方銀行や生損保など日本の機関投資家の持ち株比率もバブル時の50%から2015年3月には16.3%と激減しているのです。まさにバブル崩壊後、一貫して日本全体で<株売却ブーム>が続いてきたわけですが、ここでやっと機関投資家の姿勢は若干変わりつつあるようです。しかし個人投資家の売り姿勢は一向に変わりようがありません。このバブル崩壊後から日本人全体が安値で株を叩き売り続けている間、一貫して外国人投資家の日本株買い付けが続いて、バブル時は5%に満たなかった外国人投資家の日本株保有比率は2015年3月時点では31.7%となりついに外国人投資家は日本株の圧倒的な筆頭株主になったのです。こうみると今回の株高でも一番恩恵を受けたのは外国人投資家であり、日本人の多くは恩恵を受けていないのが実情です。

 政府はNISAなどを利用して売らないで株式を長期に保有するように誘導してきているのですが、アベノミクスが始まってから月間で個人投資家が日本株を買い越したのはNISAが始まった2014年1月だけでした。後はどの月も月間ベースでみると一貫して売り越しが続いているのです。NISAで年間に相当な資金が個人投資家から流入しているはずですが、それを軽く凌駕する売り越しが続いています。政府が如何に笛を吹いて株式投資に誘導しようとしていても、個人投資家は株アレルギーから脱することができません。

 はっきり言ってこのような投資姿勢ではデフレからインフレに向かおうとするこのご時世に儲かりようもありませんし、結果的に個人投資家は前回指摘したように<資産を減らしている>のです。<売るな>、と書きましたが、今回の相場は歴史的な大相場であることをしっかり認識しておくこと、そして<腹を据えて投資しろ>、と指摘しましたが、長期で信念を持ってしっかり保有すること、そして前回<あなたの資産は減っている>で指摘しましたが、まさに預金にしていては資産が目減りしていく現実を認識していなければならないのです。このコラムを読んでいるあなたは日本の個人投資家の大勢のように株を売り続けてはならないのです。株を長く保有し更に買い増しを行って来るべきインフレ到来に備えるべきなのです。