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第68回 相場の変動率と外為相場の実践

2009年2月6日

筆者が相場の実践で最も重視している指標は相場の変動率であり、変動率の認識なしに、現在の相場がもっているリスクを計測できないことはこれまでに述べてきた。以下のチャートは「恐怖指数」という俗称でポピュラーな指標となっているCBOE(シカゴオプション取引所)のVIX(ボラティリティ・インデックス)である。このVIXは米国株のインデックスであるS&P500を対象とするオプション取引の値動きを元に算出されている。

恐怖指数VIX(日足)2004年~2009年


(出所:ブルームバーグ、石原順)

恐怖指数の動きをみると、現在の相場の変動率が尋常でないことは一目瞭然である。サププライム問題以降(紫)、およびリーマンショック以降(黄色)の相場は平時の相場(緑)である2004年~2007年までの相場変動レベルの倍以上の変動率をもっている。

変動率が高い相場は値動きが激しいため、収益機会が多く期待収益が大きく見えるが、相場が乱高下し方向性が読みにくいという落とし穴が潜んでいる。相場格言で「トレンドにつけ」とか「トレンドは友達」などという言葉があるが、トレンド相場(方向性の明確な相場)とは本来、ジリジリ上がったり、ジリジリ下がったりするものである。この「ジリジリと動く相場」でなければ、相場のトレンドは“長期にわたって”持続しにくい。

筆者が「対円相場」の相場実践において「相場の変動率」を計測する方法として使っている指標(計算式)は「ATR(アベレージ・トゥルー・レンジ)」である。ATR(アベレージトゥルーレンジ)とは、「当日高値-当日安値」「当日高値-前日高値」「前日終値-当日高値」の3つのうち最大の値幅 (マド明けを含む最大値幅の計測)を当日の「真の値幅(トゥルー・レンジ)」と呼び、この「真の値幅」の一定期間の移動平均線がATR(アベレージ・トゥルー・レンジ)である。筆者はATRの移動平均の日数に「20日」を使用している。

ドル/円およびクロス円市場は“円の上昇時に変動幅が拡大し、円の下落時に変動幅が縮小する”という傾向を持っている。(特に変動幅縮小の過程では円安になりやすいというのが円相場の特徴である)ドル/円やクロス円通貨は、ATR(アベレージ・トゥルー・レンジ)が下がる過程で円安、上がる過程で円高となるパターンが多い。円キャリー取引は金利収益を目的とする以上、相場変動率の低下や低位安定が必要条件となる。したがって、ATRの低下期間が円キャリー取引の有効な時間帯となる。

外為市場ではこの数年間円キャリー取引が大ブームとなったが、2008年以降の大変動相場のなかで、レバレッジ1~2倍でも証拠金の維持率不足によって市場から強制退場を余儀なくされることがあった。これは、現在の外為市場がもっている変動率が歴史的にみても非常に高い水準にあるためである。

2008年10月の大変動相場以降のATRは下落基調にある。「変動幅縮小の過程では円安になりやすい」というのが円相場の特徴を考えると、確率的には円安に分があるが、2008年10月以降の対円相場は円高基調か広いレンジでの乱高下展開となっている。

この原因は、上記の恐怖指数VIXと同様に相場の変動率が下がったとはいえ、外為市場の変動率が歴史的な高水準となっていることにある。以下のチャートは豪ドル/円(日足)とATRの2004年~2009年の推移である。下段の赤い線が1日の変動幅、青い線がその20日平均線(ATR20日)である。2008年後半からの相場はまさに「百年に一度の変動率」を示現している。

豪ドル/円(日足)とATR 2004年~2009年


(出所:ブルームバーグ、石原順)

現在の豪ドル/円相場はATR上昇期(黄色)のような急激な大円高相場は終息している。しかし、ATRが下落基調(緑色)にあっても変動率の絶対水準が高すぎるため、水色の部分のような大きなレンジでの乱高下相場になってしまうのである。

筆者がこれまでに経験した最も恐ろしい大変動相場は1998年10月の円急騰相場である。この時の相場は何の前触れもなく円がいきなり急騰し、10 月6日からたった数日の間にドル/円が135円から111円まで下落するなど、見ていて生きた心地がしなかった。この時のドル/円相場と豪ドル/円相場のATRを見てみよう。

ドル/円(日足)とATR 1998年~1999年


(出所:ブルームバーグ、石原順)

豪ドル/円(日足)とATR 1998年~1999年


(出所:ブルームバーグ、石原順)

1998年当時、「こんな凄い大変動相場は二度と体験することがないだろう」と思ったが、変動率が長期間にわたって高止まりしている2008年以降の相場のほうが、筆者にとっては対処しにくい。

このような高変動率の相場に対処するには、レバレッジを落としてポジションをするか、取引のタームを短期化するしかない。現在のような「変動率は高いが予想の方向性は視界不良」といった状況では、中・長期のスウィング取引はリスクが高い。短期取引のもつリスク管理上の優位性にウエイトをおいて取引を行うほうがよいと思われる。

ユーロ/円(1時間足)と21時間ボリンジャーバンド1σ(シグマ)の飛び出し局面


(出所:石原順、楽天証券)

21時間ボリンジャーバンド1σ(シグマ)の設定画面


(出所:石原順、楽天証券)

したがって、筆者は現在、短期取引しか行っていない。1時間足の移動平均の傾きがある通貨ペアを探して、ボリンジャーバンドの1σ(シグマ)の外でのみ取引している。ATRの変動幅の“絶対水準が下がってくるまでは、短期取引主体の方針は変わらない。

さて、昨日の相場は大きく円安に振れたが、これは市場のポジションが円買いに傾きすぎて、買い戻しが出ているためである。金融安定化策として「FASB(米国財務会計基準審議会)が時価会計ルールを変更する」との噂が流れたことで、一斉に短期取引者の買い戻しが出た。ドル/円は上値が重いだろうが、91円の抵抗を上抜いたことで93円(移動平均リボンの上限)までの上値余地が生じている。ユーロ/円は120円を上抜くまではレンジ相場の継続となろう。

ドル/円(日足)目先5日の予想レンジと移動平均リボン(市場参加者の平均コスト)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/円(日足)目先5日の予想レンジと移動平均リボン(市場参加者の平均コスト)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

来週は、9日にガイトナー米財務長官が金融安定化策の包括的見直しを発表し、オバマ米大統領が景気対策に関して記者会見を行う予定である。景気対策への期待感の再燃から円買いのポジションの買い戻しとなると、もう一段の円安相場があってもおかしくないだろう。一方、来週は米国債670億ドルの四半期入札がある。〔3年債(320億ドル)入札が10日、10年債入札(210億ドル)が11日、30年債入札(140億ドル)が12日となっている〕 「景気対策の膨大な財政支出が長期金利を押し上げるのではないか」という市場の危惧を払拭できるのか、注目のイベントである。オバマ政権の景気対策が円滑に進むには、米国のファイナンスがうまくいかかどうかにかかっている。

円相場の相場変動幅(ATR)の動向(データは2009年2月5日まで)

ドル/円およびクロス円市場は「円の上昇時に変動幅が拡大し、円の下落時に変動幅が縮小する」という市場の構造を持っている。(特に変動幅縮小の過程では円安になりやすいというのが円相場の特徴である)ドル/円やクロス円通貨は、ATR(アベレージトゥルーレンジ)が下がる過程で円安、上がる過程で円高となるパターンが多い。黄色の期間は円の売り放置やキャリー取引はリスクが高くなる。筆者はデイトレードおよびスウィングトレードでも緑の期間は円売り、黄色の期間は円買いを中心にしている。2008年相場ではうまく機能したが、我々は現在長期円高サイクルの最終波動のなかにいるのである。当面は円高バイアスがかかり続けるので過信は禁物である。また、過去にはATR上昇で円安、ATR下落で円高となった局面も多いので注意されたい。

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ポンド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

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