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第225回 ブラジル株式市場の近況

2010年9月6日

今日のまとめ

  1. ブラジルは大きなイベントが目白押し

  2. ペトロブラスのディールは後味の悪さを残した

  3. ブラジル中銀は準備万端整っている

大材料が目白押しのブラジル株式市場

現在のブラジル市場には3つの大きな材料があります:

  1. 10月3日のブラジル大統領選挙
  2. ペトロブラスの大型公募増資
  3. 金利サイクルの転換点

これらについて順番に説明してゆきます。

ブラジル大統領選挙

今年のブラジルの大統領選挙は10月3日が投票日です。大統領選挙と同時に連邦議会の選挙、州知事選挙、州議会議員選挙も行われます。

ブラジル大統領選挙は第一次投票で過半数(50%)の票を獲得する候補者が居なかった場合、上位2名による決選投票になります。

今回の選挙では2名の候補者がずば抜けて人気があります。事実上、この2人の対決という風に考えて良いでしょう。

先ず与党、労働者党(PT)のジウマ・ロウセフ前官房長官です。彼女はずっとルラ大統領の補佐を務めてきた人です。

ルラ大統領も彼女を全面的に支持する態度を打ち出しています。

現在のジウマ・ロウセフ候補の支持率は41%です。

ルラ大統領が目をかけている候補だということで国民からの人気は高いのですが、ロウセフ候補にはルラ大統領のようなカリスマ性は無いし、既に行われた第一回のテレビ討論会でも緊張してコチコチでした。

これに対抗する候補がブラジル社会民主党(PSDB)のジョゼ・セラ前サンパウロ州知事です。

ジョゼ・セラ候補は演説も上手いし、政治経験も豊富です。しかし庶民のウケはいまひとつだと言われています。

現在のジョゼ・セラ候補の支持率は33%です。

セラ候補は州知事在任中にサンパウロの治安を改善したなどの実績があり、ワールドカップやオリンピックを控えるブラジルとしては彼の手腕に期待したいという有権者も居ます。

ブラジル株式市場は大統領選挙の年の5月から10月にかけて必ず相場が下がるというジンクスがあります。これはどうしてかと言えば選挙戦を有利に進めようとして相手候補のスキャンダルの暴き合いをやる場合が多いことが一因です。

しかし今年の選挙では余りそういう泥仕合は展開されていません。いや、「余り盛り上がっていない」と言った方が良いと思います。

この理由はブラジル国民は現在の政治、とりわけ経済運営の方針をしっかり守って欲しいと考えているからです。つまり国民は変化を望んでいないのです。

この点は両候補ともよく心得ており、「経済運営の仕方はいままで通りで行く」ということをハッキリ打ち出しています。

ジウマ・ロウセフ候補は当然、ルラ政権の経済運営を継承すると思われますし、ジョゼ・セラ候補もそもそも今日のブラジル経済の繁栄の礎を作ったカルドーソ前大統領の右腕として現在のブラジル経済の成功に貢献したひとりなのです。

だからどちらの候補が大統領になっても株式市場が嫌気する理由はありません。

ペトロブラスの大型公募増資

さて、大統領選挙以外に不透明要因があるとすればそれはペトロブラスの大型公募増資だと思います。この大型公募増資は概算640億ドルもの調達金額を予定しており、当然、過去最大のディールです。

しかし実際にはブラジル政府がこのディールの約67%程度を買い取ることを決めていますから、実質的な一般投資家からの資金調達は210億ドル程度になると思います。

ペトロブラスが大型公募に踏み切る理由はリオデジャネイロ沖で相次いで発見された大深水巨大油田の開発のために掘削装置、海底原油採集ネットワーク、浮遊式リグ、海上貯蔵装置など気の遠くなるような大掛かりな装置を購入する必要があるためです。わかりやすい喩えをすれば、一国の海軍を一挙に組成するような遠大な計画なのです。

ブラジルはもともとリオデジャネイロ沖での油田開発は世界中のコンソーシアムを招き入れ、リスクや費用を分散して取り組んできました。しかし余りに百発百中でじゃんじゃん石油が出るので、急遽国際入札を取りやめ、国営企業であるペトロブラス単独で開発させるという国益最優先の方針に軌道修正したのでした。

通常、油田から原油を掘り出す際はその国の政府にロイヤリティーを支払います。するとペトロブラスもブラジル政府にロイヤリティーを払わないといけないのです。

このロイヤリティーを幾らにするかという事がここ1年くらい争点になっていたのですが、1バレル当たり約8ドルをブラジル政府に支払うということが決まりました。これは国際実勢価格である1バレル当たり約5ドルよりかなり高い料金を吹っ掛けられたことになります。

別の言い方をすればそれだけペトロブラスの利益を圧迫するわけですから、一般株主のポケットからブラジル政府へと利潤が転移してしまったと説明出来ます。

しかしペトロブラスはこのロイヤリティーの支払いに加えて上で説明したような巨大な「艦隊」を整えなければいけません。だからロイヤリティーを払うのは大きな負担になるのです。

そこでブラジル政府は「わかった、それじゃペトロブラスの発行する新株を政府がドンと買い上げよう!」と提案したわけです。

そうは言うものの、それだけの巨額なキャッシュをブラジル政府が払うと国庫の負担が増えます。そこでブラジル政府はロイヤリティーの代金をもって、ペトロブラス株購入のキャッシュに代える、一種のバーター取引をすることにしました。

もっと端的に言えば「ロイヤリティーを払わなくていいから、タダでペトロブラス株をよこせ」というわけです(ロイヤリティー収入の概算と政府のペトロブラス株購入予算はピッタリ一致しています)。

今回公募される640億ドルのうち430億ドル程度はそのようにして相殺される取引です。従って、公募の「真水部分」である210億ドルだけが本当にペトロブラスが市場から吸い上げるキャッシュであり、これが「艦隊」編成の設備投資に遣われる予算となるわけです。

一般株主の立場からすればこれはなにもしないうちにブラジル政府のペトロブラス株の持ち分(=エクイティー・ステーク)が増えたことを意味します(このディール前の政府持ち株比率は30%、但し投票権ベースでは50%でした)。

株主から見れば株主権利のダイリューション(=希釈化)が起きたと理解出来るのです。

またブラジル国内の投資家はペトロブラスの公募に応じるために他の持ち株を一部処分しなければいけなくなるかも知れません。そのような需給悪化の片鱗はこのディールが公表された金曜日の立ち合い(ペトロブラス株は騰がり、他は下がった)でも見られました。

このように今回のイベントは一般の株主にとっていろいろなリスクを孕んでいます。

リスクその1.政府が過半数株主となることでロイヤリティーの設定に恣意性が出ること
リスクその2.株主権利の希釈化を一般株主は黙って見ているしかないこと
リスクその3.大型公募が市場の需給関係を悪化させるリスク

正直言って今回のディールは我々投資家からすると「後味の悪さを残した」と言えるでしょう。

ただこの問題はかれこれ1年以上も株価の頭を押さえる懸案事項となっていたため、すでに株価に織り込まれている可能性もあります。

金利サイクルの転換点

さて、ブラジル中央銀行は先週のCOPOM(政策金利会議)で現行10.75%の政策金利の据え置きを決めました。今年に入ってどんどん利上げしていたので、これは「利上げサイクルの終焉」と捉えて良いでしょう。

ある意味、ブラジル中銀は大統領選挙やペトロブラスの公募問題なども考慮した上で、かなりアグレッシブにぐいぐい利上げしてきたように見えます。別の言い方をすれば万が一の時に備えて、必要であれば利下げするなどの金利政策上のクッションが十分にあると言う事です。このように先々まで考え抜いて、半ば強引に市場を誘導してゆくのは最近のブラジル中銀一流のやり方であり、その手綱さばきには投資家として安心感を覚えます。

総括すると今日解説してきたような材料はどれも過ぎてしまえば過去のものとなる材料ですから、それが終わってしまえばまたファンダメンタルズに基づいてブラジル株投資に取り組めるときが来ると考えられなくもありません。


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