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2016年11月2日

第475回 「市場が織り込んでいないトランプリスクとクリントンリスク」

グローバリゼーションの巻き戻し

グローバリゼーションの進展で世界はデフレに向かっている。グローバリゼーションがもたらしたデフレ不況と格差社会は、米大統領選でのトランプの台頭や不景気の特徴である政治のポピュリズムを促している。こうしたなかで、現在、グローバリゼーションの巻き戻しが起こっており、英国のBrexit( EU 離脱)はその証左であろう。

元々、英国は二枚舌外交の国であり、欧州大陸を分裂させて英国が利を得る戦略をとってきた。英国は東欧諸国をEUに加入させEU拡大路線を推進する役に回っていたが、今度は英国が離脱する事態となっている。EUは本質的に独仏の国家統合であり、アングロサクソン連合に属し欧州大陸とは距離を置く英国がEUから離脱した。

欧州は第一次・第二次世界大戦を経て、欧州の自滅を防ぐためにここまで欧州統合が進んできた。ユーロの導入やEUの拡大は、強すぎるドイツ(過去のヒトラーのような脅威)を封じ込めるためにフランスが音頭をとってきたが、ここにきて拡大ユーロの限界や拡大EUの限界が露呈してきたようだ。

EUは事実上ドイツの一人勝ちとなっており、何でもドイツの言うことを聞かなければならない官僚的な体制が出来上がっている。風下に置かれているドイツ以外の欧州諸国はそれが面白くない。ユーロを導入した国々は欧州危機で不景気になっており、また、欧州を脅かすような敵国の脅威もなくなっていることから、EU統合の理念を維持するのが難しくなっている。ある調査機関の調べでは、EUに対する支持率はドイツが50%、英国が44%、フランスは38%となっている。

組織というのは敵や仮想的な敵がないとまとまらない。現在はEUを統合する大義名分というのが、見出しにくい状況にある。あるファンドマネージャーは「EUというのはグローバルな拡大を目指しているわけではなく、その反対であるブロック化の流れである。英国にとっては、EUというブロックから出ていこうが留まろうがあまり問題ではない。経済的な問題というより、政治的な問題だ」と、述べている。

歴史を振り返ると、世界規模のデフレを解消したのは、悲しいかな<戦争>という財政出動である。中央銀行バブルの限界が囁かれるなか、どの国も<内向き>になっている。既に、グローバリゼーションの巻き戻しが始まっているのだ。

トランプリスク再浮上

こうしたなかで、EU離脱派の動きと共通する現象が米大統領選でのトランプの大躍進である。ドル/円は先週金曜日(10月28日)には105円49銭まで上昇していたが、金曜日のNY時間に「FBIがクリントン氏のメール問題を再調査する」という報道が飛び込んできて104円54銭まで押し戻される展開となった。

ドル/円(日足) 転換点売買のシグナル(買い=赤・売り=青)
上段:13日エンベロープ±2%(青)・±3%(赤)
下段:3日修正平均ADX(青)

(出所:石原順)

クリントン陣営のジョン・ポデスタは、「大統領選の直前で断片的な捜査情報を公開し、FBIのコミー長官が慣例を破った」と批判している。確かに大統領選挙の直前にこのような報道が出てくるのは腑に落ちないという声が多いが、トランプは選挙に負けても不正選挙を理由に訴訟に打って出るとみられており、FBIは火の粉が飛んでこないように自己保身的なアリバイ作りに動いたと思われる。いずれにせよ、3回の討論会後はクリントン優勢のコンセンサスでリスクオン気味の相場が続いていたため、この報道には運用者も困惑気味である。

早速、トランプはクリントン非難の口撃に転じている。AFPは、「米大統領選を9日後に控えた30日に公表された世論調査で、共和党候補のドナルド・トランプ氏(70)が民主党候補のヒラリー・クリントン氏(69)を急速に追い上げていることが分かった。激戦州の一つフロリダ州では、トランプ氏の支持率がクリントン氏を逆転した」と報道している。これまで<トランプ惨敗報道>を続けていたメディア報道は、一転、「トランプにも十分勝機がある」という論調に変わっている。

11月1日のロイターの報道では、「 米ワシントン・ポスト(WP)/ABCの最新の世論調査によると、米大統領選の共和党候補ドナルド・トランプ氏と民主党候補ヒラリー・クリントン氏の支持率が逆転した。10月27日-30日に実施された調査によると、トランプ氏の支持率が46%、クリントン氏は45%でわずかながらトランプ氏が上回った」という。Brexitと同様に、「選挙はミズモノ」という不透明感が再認識されている。

トランプリスクを市場は織り込んでいない

筆者の周辺の運用者の間では、「州ごとの選挙人の数の調査ではまだクリントンが優勢であり、結局はクリントンが勝つだろう」という声が多いが、僅差でクリントン勝利となった場合、もともと人気がないクリントン政権は最初からレームダック化するリスクを抱えている。一方で、トランプリスクを市場は織り込んでいない。織り込んでいるのなら、株式市場はもっと下げているだろう。

S&P500先物(日足) 転換点売買のシグナル(買い=赤・売り=青)
上段:13日エンベロープ±1%(青)・±2%(赤)
下段:3日修正平均ADX(青)

(出所:石原順)

日経平均(日足) 25日エンベロープと9日RSIの売買シグナル
上段:25日エンベロープ±5%(赤)・±10%(青)
下段:9日RSI(赤)

(出所:石原順)

問題は、トランプが大統領選で勝利した場合の市場の反応だ。トランプの政策は不透明感が強いが、最大のリスクは政治・外交リスクであろう。ファンドにヒアリングしたところ、「不動産屋のトランプが、自分の事業に損になるような政策をするとは思えない」という理由で、経済政策はあまり心配されていないようだ。ただ、トランプの経済政策リスクは、<自国優先主義的なブロック化リスク>であり、それは鎖国をしても食える偉大なるドメスティック・カントリーと呼ばれる米国経済にとっては悪くないが、世界経済にとっては経済のブロック化という大きなリスクを抱えることになる。

ドル高相場はいったんピークアウト

昨日のNYではドルが対ユーロで約3週間ぶりの安値に下落している。FBIが先週末にクリントンのメール問題をめぐり捜査を再開すると発表してからの動きを継続しているようだ。

ユーロ/ドル(日足) 転換点売買のシグナル(買い=赤・売り=青)
上段:13日エンベロープ±1%(青)・±2%(赤)
下段:3日修正平均ADX(青)

(出所:石原順)

ドル高相場もここにきて失速している。ユーロ/ドルやドル/円のチャートを見ると、14日修正平均ADXや26日標準偏差ボラティリティがピークアウトしており、ドル高相場もいったん終了した状況だ。ドル高トレンド相場はピークアウトし、調整相場に移行したようだ。

最近、ブレイナードFRB理事が次期財務長官に就任するという噂が出ているが、彼女はドル高に嫌悪感を示しているという。また、イエレンの高圧経済発言もドル高の足かせとなりそうである。いずれにせよ、今後もドルインデックスの100ポイント辺りが相場の抵抗になるのではないだろうか。

ユーロ/ドル(日足)
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

ドル/円(日足)
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

ドルインデックス先物(日足)
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

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石原順

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