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2014年8月28日

第362回 市場で囁かれる出口戦略についての裏取引、現在のドル高はドラギECBのQE観測とグローバルマネーの資産選択の結果

中国が米国の「出口戦略」に注文を付けた?

ジャクソンホールのシンポジウムばかりが話題になった8月相場だが、現在、ファンド運用者の間で囁かれているのは、「7月の米中戦略・経済対話で米国の出口戦略についてなんらかの裏合意があったのではないか?」という観測だ。

7月9日・10日に北京で<第6回米中戦略・経済対話>が開催された。この場で政策金利引き上げなど米金融緩和の「出口戦略」をめぐり、イエレンFRB議長と中国当局の間で「出口戦略」についての意見交換があったことが明らかになっている。

「とくに多くの時間を割いたのは量的緩和からの出口政策を進めるFRBの対応だ。中国は新興国の資本の流れが不安定になる恐れが強いとして、秩序だった出口政策を進めてもらいたいと慎重な変更を要求した。9日の開幕式にはイエレンFRB議長も出席。FRB議長が米中対話に出席するのは異例で、出口政策や金融市場の情勢を巡り中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁らと意見交換したとみられる」(7月10日 日経新聞)、「中国人民銀行の周小川総裁はFRBが進める量的緩和政策の縮小が世界的なお金の流れの変調を招き、人民元改革を妨げているとの認識を示した。 FRBは、量的緩和政策を10月に終える方針。中国側は“影響を注視する”(汪副首相)構えで、今後も米国に注文を付け続けるとみられる」(7月10日 毎日新聞)と、報道されているように、<第6回米中戦略・経済対話>では中国が米国の出口戦略に対してなんらかの注文を付けたのは間違いないようだ。

中国の米国債保有残高(2014年6月30日現在 単位:10億ドル)
中国にとって米国債は軍事兵器より強力な破壊力を持つ金融兵器である

(出所:石原順)

2月11日の議会証言では、「新興国通貨不安については現段階では米経済への重大なリスクにならない」「量的緩和は米経済成長の支援が目的で、雇用回復などの条件が整えば段階的に正常化へ向かう」と答えて、「新興国不安はリスクにならない」と主張していたイエレンだが、7月9日の米中戦略・経済対話では「FRBは政策が国際金融システムに及ぼす影響に気を配る」と、約束したという。

米中戦略・経済対話以降は利上げ後ズレ観測で株式市場が上昇、日本はPKOで対処

注目すべきは7月9日・10日の<第6回米中戦略・経済対話>と前後して、主要国の株が切り返していることである。日銀が連日のETF買いを行ったのも7月である。6月に「利上げは市場予想より早期に実現する可能性がある」と発言していたカーニー英中銀総裁は、8月の<インフレーション・レポート>で英国経済の中で最も弱い部分となっている賃金に着目し、利上げを急がない姿勢を表明している。なんだか、中央銀行の動きがおかしくなっている。

7月31日に「FRBが予想よりも早い段階で利上げに踏み切る可能性がある」との観測から米国債の金利が上昇し、NYダウが317ドル安し米国株が下げに転じると、8月11日にスタンレー・フィッシャーFRB副議長が、「これまでの米国と世界の景気回復については、<disappointment(期待外れ・失望)>」と述べた上で、「潜在成長率の永久的な下方シフトを示唆する可能性がある」との見方を示した。これまで沈黙していた影のFRB議長が、ローレンス・サマーズの「長期停滞論」と同じことを語り、「バブル必要論」(バブルがないと完全雇用は達成できないという必要悪的なバブル容認論)の立場を表明したのである。

スタンレー・フィッシャーは米国経済について、「米国の長期的な年間成長率はおそらく2%程度にすぎず、2009年にFRBの政策当局者が推定した水準より1%も低くなっている」との認識を示したが、8月17日にはカーニー英中銀総裁も「ニューノーマルが2.5%前後と、危機前の約半分の水準に下がった」と、スタンレー・フィッシャーの発言をなぞるような潜在成長率の下方シフトを指摘した。

上海総合指数(日足) 米中戦略・経済対話後の相場は保合上放れ、中国は10月13日に香港市場を通じ、上海株の取引を海外の個人投資家に開放する予定になっている

(出所:石原順)

NYダウ(日足) 現在の株高はスタンレー・フィッシャーのおかげ

(出所:石原順)

英FT100(日足) 米中戦略・経済対話とスタンレー・フィッシャーの講演で相場が転換している

(出所:石原順)

日経平均(日足) 7月の日銀の5営業日連続のETF買いは、消費増税による景気落ち込みに対するPKOだけが理由なのか?日本株は国家管理相場となっており、PKOと公共事業の分だけ相場が上がるだろう

(出所:石原順)

中国の圧力により、イエレンが「FRBは政策が国際金融システムに及ぼす影響に気を配る」と約束した以上、FRBの出口戦略は市場の後手に回る確率が高い。ファンド運用者の多くは、「利上げはむしろ後ズレし、利上げ幅も小幅であいまいなバンドでの提示となるだろう」と述べている。

利上げが前倒しになる可能性があるとしたら、それは米国株をはじめとするリスク資産がシラー教授の言う<根拠なき熱狂>に発展した場合だけだ。しかし、FRB正・副議長が「金融の安定性を維持するには、マクロプルーデンス政策や規制ツールをまず活用すべきで、金利水準の変更など、金融政策のより直接的な措置は、最終手段であるべきだ」との考えを持っている以上、急テンポの利上げでバブルを制御することは考えにくい。

ジャクソンホールのシンポジウム会場で利上げの延期を求める市民団体

「国際連合の人間開発報告書によると、世界で最も裕福な85人が、世界の半分にあたる35億人の貧困層と等価の財産を所有しているという。世界の労働者の半分は非正規もしくはパートタイム労働などの一時的なもので、教育レベルが向上しているのもかかわらず、経済にはもはや提供すべき雇用がない状況だ」(WIRED ITWorld News)との報道を見ても分かるように、世界経済は「停滞構造」へのプロセスに嵌まり込んでいるのである。

日経ヴェリタスのイエレンのジャクソンホール講演の記事を読んでいたら、少し驚くことが書いてあった。『ジャクソンホールのシンポジウム会場には、利上げの延期を求める市民団体も詰めかけた。「WHAT RECOVERY?(景気回復ってなんだ?)」「We need an economy that works FOR ALL OF US!(皆に恩恵が行き渡る経済が必要だ)」―。そんな文字が入った緑色のシャツを着て、議長にも陳情していた』(日経ヴェリタス8月24日「イエレン議長の建前と本音」)

市民団体が「貧富の差が拡大するだけのQEをやめろ!」との要求をするのはわかるが、「利上げの反対を求める」というのはあまり聞いたことがない。「利上げの反対を求める」という運動は、米国人も家計が悪化している証左であろう。米国の勤労世帯の半分は貯金がほとんどない。米国の貧困層はクレジットで消費しているのが現状である。FRBが利上げを急げば低所得者の消費は止まってしまうだろう。

ジャクソンホールで講演でのイエレンはこれまでの主張を繰り返しただけだ。「目標への進展が緩やかなら利上げが遅れる可能性があり、目標への進展が早ければ利上げが早まる可能性がある」という中立的な発言は、タカ派に配慮しただけだろう。「フォワードガイダンスで予断を与えるべきではない」と主張するスタンレー・フィッシャーの指示通りであり、イエレンは市場に<言質>を取らせなかった。

今後、FRBの金融政策に変化が出てくるとしたら、強力な発言力を持っているイエレンFRB議長(ハト派)、フィッシャーFRB副議長(長期停滞説・バブル必要論)、ダドリーNY連銀総裁(長期停滞説・バブル必要論)の発言のトーンが変わる必要があるだろう。タカ派やハト派といわれる色のついた連銀総裁の発言(講演やインタビュー)は、イエレンが状況を見ながら市場に対する牽制や観測気球として使っているだけだ。

現在のドル高はドラギECBのQE観測とグローバルマネーの資産選択の結果

現在のドル高はイエレンのジャクソンホール講演がタカ派で、米国の利上げ前倒し観測が出ているからだという報道が多い。利上げ前倒しが予想されているのなら、米10年国債金利も上がってよさそうなものだが、そうはなっていない。これについては、「米2年国債は利上げ観測で上げているが、米10年国債は潜在成長率の低下を織り込んで下げている」という解説もされているが、どうも釈然としない。

利上げ前倒し観測ということで言えば、確かに米2年国債金利は上がっているが、大した上昇ではない。7月に米2年国債金利が0.44%から0.56%に上昇した時、米国株が急落したのは記憶に新しい。ところが、今回米2年国債金利が0.4%から0.5%に上昇しても米国株は上げ続けている。為替市場では利上げ前倒し観測が出ていて、株式市場では緩和長期化観測が出ているという。市場によって解釈が違うのかどうか知らないが、まったく無茶苦茶な話である。

米2年国債金利(日足) 来年に利上げがあるのは確実だが・・

(出所:石原順)

米10年国債金利(日足) 利上げ前倒し観測でも長期金利は上がっていない。日本の郵貯・簡保・年金も米債投資を増やす?

(出所:石原順)

現在のドル高は、<ドラギECBのQE観測>と<グローバルマネーの資産選択の結果>であろう。ドラギ総裁はジャクソンホールで「政策スタンスをさらに調整する用意ある」「ECB理事会、インフレ期待を確実に安定させるため非標準的措置も講じる」と語った。ファンド勢は「欧州もQEを行う確率が高まった」とみている。

「ユーロ圏の追加緩和観測、英国の利上げ後ズレ観測で、比較感の問題ではあるが、相対的に景気のよい米国への資金流入が起きている」と、ブローカーが語っているように、高値更新を続ける米国株式市場は日欧の株式市場より魅力的だろう。国債市場にいたっては信用リスクの高いイタリア国債やスペイン国債の金利が米国債より低いという状況だ。そうした比較感から米国債は買われやすい状況にある。グローバルマネーの資産選択の結果として、ドル資産への資金流入が起きており、その結果として為替市場はドル高相場となっている。

イタリア10年国債金利(日足)

(出所:石原順)

スペイン10年国債金利(日足)

(出所:石原順)

ドル/円は先週のレポートに書いたように、米雇用統計発表日に高値を付けるという2014年のドル/円相場の循環を考えると、「9月5日(次の米雇用統計発表日)まではドル/円の押し目買いに分がある」というのが投機筋の基本的な見方である。

現在、ADXや標準偏差ボラティリティの上昇が息切れしてきており、それらがピークアウトし、相場が21日ボリンジャーバンド+1シグマのラインを下回ってくれば、強いドル買いトレンドはいったん終了し調整相場に移行するだろう。仮にそうしたドル/円の調整局面になれば、ストキャスティクスの位置を確認しながら押し目買いを考えたい。

ドル/円(日足)21日ボリンジャーバンド+1シグマの攻防

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

ユーロ/ドル(日足)ドラギRCBの思惑通りのユーロ安相場だが、ユーロ売りポジションの偏りを見ると1.31~1.30付近では利食いが出そう?

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

シカゴIMM ユーロのポジション (8月19日現在)ユーロ売り138825枚

(出所:石原順)

ユーロ/円(日足) ECBのQE観測で軟調

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

ポンド/ドル(日足) カーニーBOE総裁の日和見発言で利上げ先送り観測が浮上

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

豪ドル/円(日足) アノマリーの8月安値を確認した後、上値抵抗線をブレイク!

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

NZドル/円(日足) 買われすぎと利上げ休止で反落も、そのうち出番が回ってくる?

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

波乱要因は10月のQE終了だ。現在のファンド勢の興味は、10月のQE 終了後、米株式相場が下落トレンド相場に転換するのか否かである。株安となった場合は、利上げ開始は後ズレしそうだ。そう考えると、現在のドル高が持続するか否かは、米国株の動きがカギを握っているのかもしれない。

NYダウ(週足)と米国の金融政策 QE終了後のダウは調整する確率が高く、<10月相場>は要注意?

(出所:石原順)

米S&P500株価指数月足の対数(LOG)チャート 上昇6年目のバブル延命相場だが、秋以降は危険なフェーズ(位相)に入る?

(出所:石原順)

フランスの経済学者トマ・ピケティの『21世紀の資本論』の英語版は700ページ以上の分厚い本で、価格も約4000円と高い。それでも米国での売り上げは経済学書としては異例の40万部を超えているという。ピケティは資本主義を否定しているわけではない。「今の独占資本主義では未来への展望がなくなっている。過剰生産と過剰資本を国家が膨大な赤字(借金)を使って消費することで、なんとか経済がもっている。しかし、それは膨大なツケを将来に飛ばす(先送りする)行為に他ならず、結果的に資本主義社会に危機が迫っている」と、警鐘を鳴らしているのである。

膨大なツケを将来に飛ばす(=バブルの先送り)には、さらなるバブルの膨張が必要だ。当然、将来の副作用は大きくなる。しかし、そうでもしなければ今の世界経済は立ち行かなくなっている。こうした現状を中央銀行も十分承知しながら、金融緩和を長期化し、確信犯的に時間稼ぎをしているのが今のバブル延命相場なのである。

日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。

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石原順

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海外のヘッジファンドを運用する現役のファンドマネジャーが、相場の周期および変動率を利用した独自のトレンド分析や海外情報ネットワークを利用した「生」の情報を提供いたします。

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