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2014年8月7日

第359回 ドル高の背景とドル高の限界・米国株のバブルは賞味期限切れか?

地政学リスクは戦争しない米国から欧州へ

オバマ米大統領はシリア問題に関する2013年9月10日のテレビ演説で、「米国は世界の警察官ではないとの考えに同意する」と述べた。また、「約70年にわたって世界の安全保障を支えてきた」と、 米国の歴代政権が担ってきた世界の安全保障に責任を負う役割は担わない考えを明確にした。

「現在の世界状況は1914年に似ている」とよく指摘されるが、オバマは「中立を保ちたい」という第一次世界大戦前の英国のような態度を取っているので、ロシア、中国、イスラエル、北朝鮮などが好き放題に動いている。

米国が世界の警察官を止めているので、地政学リスクはもっぱら欧州が引き受けることになってしまった。これが現在のドル高の背景である。

ウクライナ情勢に絡むEUの対ロシア経済制裁が8月から発動されたが、ロシアの景気低迷は欧州の企業にとってもリスク要因となっている。EUにとって、ロシアは米中に次ぐ貿易相手となっており、ウクライナ問題が長期化すれば欧州経済も返り血を浴びることになる。

昨日発表された6月の独製造業受注は前月比3.2%減と、市場予想の同0.9%増を大きく下回った。イタリアの4~6月期GDP速報値も前期比0.2%減と、1~3月期の同0.1%減に続き2四半期連続でマイナス成長となり、リセッション(景気後退)入りが明確になった。

投機筋は地政学リスクの結論は「欧州通貨売り」とばかり、欧州通貨の売りに動いている。

特にユーロ売りに関しては、「欧州経済の悪化もあるが、ドラギECBがユーロ安誘導を行っているので売りやすい」との指摘が多くのトレーダーから出ている。ドラギECBとしてもユーロ安は悪くないと思っているはずだ。

ユーロ/ドル(日足) 1.33はサポートポイント、そろそろ反転にも注意が必要か?

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

シカゴIMM ユーロのポジション(2014年7月29日現在 CFTC発表)

(出所:石原順)

ドル/スイス(日足) ユーロペッグでユーロと連動

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

ポンド/ドル(日足) 英国にもロシア経済制裁の影響が・・

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

ドルインデックス先物(日足) 7月中旬からドル高トレンド発生

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

注目のジャクソンホールイエレン講演、「労働市場の動向の再評価」でイエレンはやはり後手に回るのか?

さて、それでは現在のドル高相場は長期的に持続していくのであろうか?結論から言えば、ドルの上値も限定的だと思われる。それは米国の金利が持続的に上がっていかないからだ。GDPや雇用統計の数字に刹那的に反応はするものの、金利の上昇トレンドは発生していない。

米10年国債金利(日足) 金融抑圧が効いている

(出所:石原順)

米2年国債金利(日足) ニューニュートラル相場

(出所:石原順)

そんななかで、8 月 21日~23 日に開催されるカンザスシティ連銀主催のジャクソンホール・コンファレンスに投機筋の注目が集まっている。

好調な米経済指標を受けて、FOMC 内部でもタカ派のメンバーからは、金融政策の正常化を進めるべきとの声が高まっている。「後手に回る(ビハインド・ザ・カーブ)のを避けるべきだ」という主張である。

だが、イエレンは後手に回るだろう。米国の株式を運用するファンドの主催者は、「ビハインド・ザ・カーブになるに決まっている」と自信ありげだ。イエレンの講演テーマは「労働市場の動向の再評価」であり、「イエレンが労働市場の動向を再評価すれば、米国の金利は上がらない」と、先のファンドの主催者は述べている。

米国の表の雇用統計はパートタイム労働者の増加で改善しているものの、イエレンは「多くの国民が失業者としてカウントされず、失業率が抑えられている」と指摘している。イエレンが目指しているのは「労働市場の質的改善」である。求職意欲を失った労働者とフルタイムの雇用を望むパートタイム労働者を含む広義の失業率は現在12.2%であり、イエレンを納得させる数字ではない。

米国の雇用統計の推移 2000年~2014年 表の雇用統計は好調!

(出所:石原順)

米国の広義の失業率 1994年~2014年 2014年7月現在12.2%

(求職意欲を失った労働者とフルタイムの雇用を望むパートタイム労働者を含む)

(出所:石原順)

2009年5月に世界最大の債券ファンドPIMCOは『ニューノーマル』という考え方を発表した。『ニューノーマル』では<経済に対する政府の関与の強化>が指摘されていたが、これは「金融抑圧政策」となって現在も続いている。ニューノーマルから5年経った今も、構造的失業率上昇、財政悪化、異常低金利政策の長期化が続いている。

この傾向は今後も変わらないという主張は説得力がある。潜在成長率の低下を主張するPIMCOの『ニューニュートラル』、サマーズの『長期停滞論』が展開され、挙句の果ては、「貧富の差のバブル」に警鐘を鳴らすトマ・ピケティ(21世紀のマルクス)の『21世紀の資本論』が大ブームを巻き起こしている。これでは、米国の金利が趨勢的に上がっていくという状況にはなかなかならないだろう。

米国の国債(金利)市場も経済指標に反応しなくなっている。金融抑圧政策が市場に浸透してきたのだろう。雇用統計でよい数字が出てもISMでよい数字が出ても、刹那的にしか反応しなくなっている。4~6月期の米GDPには大きく反応したものの、短期的なものだった。米国経済は緩やかながらも回復しているといいながら、金利は全然上がらない。

IMFの米国の2014年の経済成長見通しが1.7%では、金利など上げている場合でないのも確かだが、イエレンが<金融抑圧>を念頭によい指標が出ても難癖をつけているので、実質マイナス金利の方に相場は誘導されていく。FOMCの運営はフォワードガイダンス的な要素は形骸化し、ますます裁量的な運営になっていくだろう。

先週のレポートにも書いたように、現在の異常低金利とカネ余り状況では、大企業は低金利で簡単に社債を発行できる。米国では社債で調達した資金で自社株を買い戻す動きが顕著(主要500社の8割)で、業績そのもののバブル、すなわち、<一株利益のバブル>が起きて、米国株高を支えている。

米企業は自社株買いを行い、会社の幹部に市場価格より安い株式をストックオプションで発行するというお手盛りの株高経営を続けているのだ。また、金融抑圧政策で国債金利が人為的に低く抑えられているので、運用難のなか、信用リスクを取りに行くジャンク債バブルが発生している。

NYダウは調整らしい調整もなしに5年4カ月上げてきた。しかし、こうしたバブル相場も現在変調をきたしている。今週のNYダウは16369ドルまで下落する場面があったが、NYダウは下がったと言ってもまだ高値から782ドルで高値からまだ4.55%の下げにすぎない。弱気筋の見方では、「16000ドルや高値から1割押し水準の15436ドルあたりまで調整してもおかしくない」との声が聞こえてきている。

また、QE3は10月で終了するが、QE1が終了したときにNYダウは14.6%値下がりし、QE2が終了したときには18.46%値下がりした。QE3終了前にイエレンがタカ派的なことを言うわけがないというのが筆者の周辺のファンドの見方だ。

NYダウ(日足) 相場はまだ-2シグマの外・・

上段:26日標準偏差ボラティリティ
下段:18日移動平均線±3%乖離(緑)・21日ボリンジャーバンド±2シグマ(赤)

(出所:石原順)

これまでレポートでジャンク債バブルやリートバブルに警鐘を鳴らしてきたが、米国では高利回り債投信から7月30日までの3週間で約120億ドルが流出した模様だ。ジャンク債バブルもピークアウトの兆しが出ている。

余談だが、日本の方も、8月4日の日経新聞(16ページの景気指標)で住宅価格の急落が報道されている。「住宅価格が軟調な背景には少子高齢化がある。団塊ジュニアの住宅購入ピークは過ぎたとみられ、今後、需要が細る公算が大きい」と報道されているが、日本人の年収に対して住宅価格が高すぎるので、アベノミクスというスタグフレーションのなか、資産デフレも少子化もなかなか終わらない。先進国はみな長期停滞中なのである。

米S&P500株価指数月足の対数(LOG)チャート 

米国の株の上昇は概ね5年、上昇6年目のハードルは高い?アディショナルタイム相場も終わったのか?

(出所:石原順)

NYダウ(週足)と米国の金融政策 QEを止めると株が下がる?

QE1が終了したときにNYダウは14.6%値下がりし、QE2が終了したときには18.46%値下がりした

(出所:石原順)

ドル高の限界とドル/円相場の行方

イエレンのジャクソンホール講演がハト派路線継続的な内容なら、米国の利上げ前倒し観測は後退するだろう。そうなると、米国債の金利も上がらないので、自ずとドルの上値も限られよう。

そうした環境の中でドル/円が上昇するには、ユーロ/円をはじめとするクロス円の下落が止まる必要があるだろう。それには、何よりも米国株の現在の調整が終了する必要があろう。ジャクソンホールでのイエレンのスピーチがそのきっかけとなるのか注視したい。

ドル/円(日足)と米雇用統計発表日

またもや雇用統計発表後に失速、米雇用統計の日は相場の転換点なのか?

上段:21日ボリンジャーバンド±2シグマ(赤)
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

ユーロ/円(日足)

上段:21日ボリンジャーバンド±2シグマ(赤)
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

いずれにせよ、北半球の夏相場(4月末~10月末)は無理をする時期ではない。米国株の長期上昇相場は64カ月でトップアウトしたという見方も出ている。米国株の中間選挙の翌年高のアノマリーを見据えれば、大きく買うのは10月末以降からで十分と思われる。

NYダウ(年足)と米中間選挙翌年のNYダウの年間騰落率(%) 18連勝中

(出所:石原順)

日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。

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