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楽天証券ニュース[マーケット情報] 発行:2010年6月28日 楽天証券株式会社

楽天証券

楽天投信投資顧問 CEO兼最高運用責任者が、1週間のマーケットに鋭く斬り込む! 大島和隆からの手紙

6月第4週

マーケット概況

株式 週末終値
(6/25終値)
前週末比
(6/18比)
日経平均 9,737.48 -257.54 -2.58%
NYダウ 10,143.81 -306.83 -2.94%
金利・為替 週末終値
(6/25終値)
前週末比
(6/18比)
長期金利 1.145% -0.055%
ドル/円 89.24  
ユーロ/円 110.37  

選挙までの谷間こそ、個別銘柄を選別投資する好機

前週の総括

■中国の本気が問われる

 この一週間の市場の動きは上記の表の通りです。週明けの日経平均株価は中国の「人民元相場弾力化」の発表を受けて「人民元切上げ」という期待が膨らんだことにより寄付きから一気に10,000円の大台を回復して始まりました。ただ前回のレポートでも触れた通り、「弾力化」と「切上げ」の違いに徐々に市場も気が付くに至って騰勢を弱め、その後は米国景気の動向に目線が集まって株価は停滞するという展開となりました。

 市場関係者の間では週明け早々から「中国が人民元を切り上げるとどうなるか?」とか、あるいは「どの程度切り上げるのか?」と言った議論やレポートを縷々拝見する機会がありましたが、蓋を開けてみると、一週間が終わった週末の人民元相場の終値は「1ドル=6.7930元」です。この水準、2008年7月に実質的なドル・ペッグ制復活を宣言して固定された水準が「1ドル=約6.83元」ですから、そこから見て約0.54%の人民元高に動いたにすぎません。つまり固定していた動きを「弾力化させる」と発表されたその弾力幅である前日比±0.5%以内の範囲に一週間後もまだあるということです。「大山鳴動して……」とは言いませんが、実際に中国に人民元切上げの意図がどこまであるのかはよく解りません。

 この週末、カナダのトロントで行われたG20(20カ国・地域首脳会合)では、欧州の財政問題などは各国の支援結束などの議論がなされて確認されたようですが、腫れ物に触るかのように扱われた人民元問題は踏み込まれることなく、世界にも市場にも「期待値」だけを残して終わったというのが実際のところです。よく「市場は先走る」と言いますが、中国の本気を確認するまで、このテーマに関しては慎重な取り扱いが必要だと思っています。

■人民元切上げの合理的な水準

 ちょっと整理をしておきたいのですが、仮に中国政府が人民元切り上げを(G8(主要国首脳会議)前のポーズとしてではなく)本気で考えていたとして、どこまで切り上げが可能かという議論をまとめておきます。前回も簡単に触れましたが、どうも市場の議論が混乱しているように思いますので、あらためて整理させて頂きます。

 今話題になっているのは人民元の対ドルでの為替レートですが、ご承知の通り、米国債の最大保有者は、今や日本ではなく中国です。つまりドル預金を持っている個人投資家と気分は一緒です。自国通貨を切り上げるということは、その時価評価を引き下げることと同義ですから、この意味において、(外貨預金をしている人が円高を嫌がるように)中国政府に人民元切上げのインセンティブは全くありません。ならばどの程度までならば「仕方ない」と思えるかという一つの目安は「金利水準」という考えが成り立ちます。すなわち、保有している米国債から発生するクーポン収入で賄えるところまでということです。この週末の米国10年債金利の水準は低下しており3.107%でした。だからこの水準、つまり3%プラスアルファ程度までならば、元本の時価評価は下がっても一年後の金利収入まで見込めば資産は目減りしないことになります。

 次にどんどん資本主義化して活動している中国企業の状況からその水準を考えてみます。2010年3月の中国の貿易収支だけは赤字になりましたが、この数年は基本的に黒字基調です。つまり輸出が輸入を上回っている状況で外需企業の収益好調が中国に外貨を稼がせ、繁栄をもたらしているとも言えます。この点は日本と構造は一緒ですが、その輸出関連企業の収益状況がどこまでの人民元高までならば耐えられるかと言えば、諸説ありレンジがありますが、おおむね4%前後というのがひとつの共通認識です。逆にそれを超えると輸出企業が赤字になり、失業者を出さざるを得ないということになるのですが、案外と余裕はありません。

 日本企業は円高に遭遇するとすぐに円高対策を講じ始めます。その主なものは2つで、1.現地生産化と2.コストカットです。しかし、残念ながら現在の中国経済の状況ではこの2つは至難の業です。中国政府は日本の約10倍とも言われる国民をまず食べさせてないといけない必然性から国内に何としても産業を確保し就労先を作らないとなりません。これが農民工という農村部から都市部へ出てくる出稼ぎ労働者のいわれですが、ゆえに現地(海外)生産など端からできるわけがないのです。また、現在ホンダやトヨタの中国現地工場でストライキが頻繁に起こっているのは、この農民工の安過ぎると言われる賃金問題、すなわち給料引き上げを趣旨としたものですから、コストカット名目の伝家の宝刀である「人件費カット」という文字は外資系企業を含めて中国企業の現在の辞書にはありません。ゆえにこの2つの対策を講じる方策がなく、為替に対する抵抗力はほとんどないのです。中国製品に価格以外の競争力が身につき始めれば話は別ですが、今はまだその段階ではありません。

 これら2つの事情を勘案すると、中国政府が仮に人民元切り上げに踏み切ったとしても、その幅は3−5%前後に過ぎず、それ以上を望むためにはもっと世界景気が良くなって市場全体のパイ自体が膨らむ必要性があります。ドル・ペッグ制に2008年7月に固定された時の約6.83という水準から逆算すると約6.56(4%切上げ)程度、これがある意味で1年先まで位のターゲットと見るのが妥当な気がします。そうだと冷静に判断した場合、目先仮に人民元が引上げになったとしても、それがゆえに世界景気や株価が大きく上昇するという見通しは簡単には書けないというのが正直な印象です。

■米国経済回復に陰り?!

 先週は米国で住宅関連の経済統計が2つ発表になりました。まず22日に中古住宅販売件数、翌23日には新築住宅販売件数が発表になりました。全米不動産協会が発表した5月の中古住宅販売件数は、季節調整済み年率換算で566万戸、これは市場予測の平均610万戸を54万戸も下回る大きな落ち込みとなりました。また米商務省が発表した5月の新築一戸建て住宅販売件数は季節調整済みの年利換算で30万戸と、これも市場予測の平均43万戸を大きく下回る結果となりました。市場規模としてはご覧の通り中古市場が新築市場の約10倍あるのが米国住宅市場の特徴ですが、今回、新築住宅販売件数の対前月比の落ち込みぶりは統計上遡れる1963年以来過去最大の水準と言うことで、市場はかなりこれを嫌気したのは事実です。

■米国FOMCでも慎重な発言が続く

 日を同じくして現地時間23日に開催されたFOMC(連邦公開市場委員会)の声明では、FF(フェデラルファンド)金利の誘導目標を予想通り0−0.25%据え置くとともに、低金利を長期間維持する方針が再表明されました。その理由の1つとして前述の住宅関連の問題があり、声明では前回は「住宅着工は小幅増加した」としていましたが、今回は「住宅着工は依然として低い水準にある」と後退しました。また市場がとりわけ気にしたのは景気全般についてであり「経済回復が進みつつある(proceeding)」と前回の「経済活動は引き続き強まった」と景気の回復ペースに関する判断を後退させ、一部で弱さが見られると指摘したことで、さらには欧州債務問題を背景とした金融市場の変動に対する警戒姿勢を示したことが嫌気されました。

■日米ともに長期金利が急低下

 これらを受けて米国の長期金利は急低下し、再び3.1%台に突入し、週末終値で見ると3.1078%となっています。これは5月下旬に欧州の信用不安が一気に高まった時に急落したザラバ・ベースの安値水準(5月25日、3.0606%)にこそ届いていませんが、引け値ベースでは6月23日以降、1年振りの安値を切り下げる展開となっています。米国長期債市場の動向を反映し、日本国債の利回りも低下、新発10年国債の週末終値は1.145%と前週末対比0.055%も低下しています。

 
(出典:Bloomberg)

<米国10年債の金利水準の推移です。-----------------------5月の下旬に下髭が長いチャートが何本かありますが、引け値ベースでみると完全に安値を切り下げているのが良く解ります。世界中で不透明感が集まると、逃避先としての米国債の位置づけはやはり高まるということだと思います。>

今週のポイント

■日本株へエールを送りたい

 日本市場がますます主体性をなくしていっていると見えるのは残念な限りです。売買代金は再び減少の一途ですが、そこまで日本企業が魅力のないものばかりになったとは決して思えません。『プリウス』を運転するたびに日本の技術に感銘を受け、フラット画面TVの映像を観るたびにその美しさに和みます。それらを支えているのはすべて日本の技術です。また日本の技術がなければ世界のHDDはその回転を止めます。クラウド・コンピューティングを支えている半分は日本の技術とも言えるでしょう。にもかかわらず、欧米の経済統計に振り回され、中国の通貨政策に一喜一憂し、呪文のように「新興国景気にあやかろう」と唱えているようことに違和感があります。

 週末の日経新聞朝刊「けいざい解読」のコラムから引用ですが「米ゴールドマン・サックスの予測によると、20年の株式の現物と先物の1日当たりの売買高は日本が287億ドルと、中国(3,914億ドル)のおよそ13分の1になる。韓国、香港、インドにも抜かれ、アジアでのシェアは4%程度に落ち込む見通し」(日本経済新聞 2010年6月27日 朝刊、『「日本の金融」夢物語』より)とありました。「ジャパン・アズ・ナンバー1」と20年前には豪語していた記憶がまだ残っているからのんびりしているのか、はたまた諦めムードが漂っているから諦めているのか、ゴールドマンの鳴らす警鐘に「まずい」と思っている人がどの程度いるのでしょうか?悟った賢者の間からは「国内を諦め、海外展開すれば良いだろう」という議論が聞こえてくるのは良く承知しています。ただ印象としては、幕末「尊王攘夷論と佐幕論」が戦っているのを見ながら「藩単位でガタガタ言い合っている間に、にっぽん国自体が異国に侵略されて滅んでしまうぜよ」と憂いた坂本龍馬の気持ちに今の気分は似ています。株式の売買代金が再び減少の流れから抜け出せないで今の日本はもがいています。1日当たりの平均売買代金の1兆1,000億円台という低水準が2週間連続で続きました。なんとか日本市場に主体性と自信を取り戻させないとなりません。

 恐らく、今週も米国の雇用統計が週末金曜日(現地時間2日)にあり、その前に29日には6月米国消費者信頼感指数、4月S&Pケース・シラー住宅価格指数、翌30日は米ADP雇用統計があり、1日は米ISM製造業景況指数の発表があり、さらには29日のユーロ圏消費者信頼感指数、2日にはユーロ圏の失業率の発表があるため、売買代金の上昇は望めないでしょう。市場コメント(私も結局同じにせざるを得ないと思いますが)の多くも「市場は欧米の主要な経済統計発表を前に様子見を続けている」となると思いますが「ここは日本市場なんだよな」という思いをいつも抱いています。1日に発表になる日銀短観には敬意を表するとしても、欧米の指標に振り回されるのは情けない限りです。是非、日本の技術を再評価して、株主として応援する気持ちも含めて、中長期の視点で日本株を見直して欲しいと思います。

■円高傾向は参議院選挙までは続く可能性大

 なんでそんなことを言うかと言えば、円高自体は少なくとも参議院選挙終了までは続く可能性が大だからです。民主党が財政再建の旗を上げ、消費税引き上げや法人税引き下げの話に舵を切ってくれたおかげで、日本の財政再建への道程は少なくとも先月よりは見えてきたように思います。世界最悪の公的債務の対GDP比率ということで燻り続けていた日本のソブリン・リスクはしばし見えなくなっています。ゆえに消去法的にも円が買われる流れがある以上、選挙前まではこの流れは持続する可能性が高いと言えます。そしてその直後から米国の4-6月期の決算発表を振り出しにミクロのデータが集まり始めます。今はそれまでの調整期間と見られなくもないからです。

 今週も素晴らしい一週間になることを願っています。

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PROFILE

大島和隆

楽天投信投資顧問株式会社 CEO兼最高運用責任者
約20年間にわたり、欧米の企業も自ら訪問調査するファンドマネージャーとして活躍。日本企業を外から見た目線で評価する独自の判断にこだわってきた。
2008年6月、楽天証券経済研究所チーフストラテジストに就任。2009年4月から現職。運用サイドからの投資情報を発信。

※ 楽天投資塾!運用会社の“生の声”(楽天投信投資顧問公式ブログ)
http://plaza.rakuten.co.jp/toushintoushi/

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