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楽天証券ニュース[マーケット情報] 発行:2009年3月16日 楽天証券株式会社

楽天証券

チーフストラテジストが、1週間のマーケットに鋭く斬り込む! 大島和隆からの手紙

マーケット概況

株式 週末終値
(3/13終値)
前週末比
(3/6比)
日経平均 7,569.28 +396.18 5.52%
NYダウ 7,223.98 +597.04 +9.01%
金利・為替 週末終値
(3/13終値)
前週末比
(3/6比)
長期金利 1.315% +0.025%
ドル/円 97.98  
ユーロ/円 126.59  

過度な悲観論が後退したと信じてもみたいが…、まだ早い

前週の総括

■シティも、JPモルガンも、バンカメもCEOが業績強気

 先週の主な市場の動きは上記の表の通りです。日経平均株価が前週末対比で+5.52%の上昇を演じる中、米国市場はNYダウでも+9.01%、S&P500種ならば10.71%の上昇となりました。NASDAQはS&P500種にわずかに負ける+10.61%ながら、週末終値の水準はすでに早くもオバマ大統領の就任式が行われた時と比べ、わずかに△0.65%とほぼ同水準まで回復。NYダウがまだ△9.12%と低迷している中で、かなり抵抗しているという感じがします。

 先週の米国株式市場の戻りをリードした大きな理由は、シティ、JPモルガン、そしてバンカメと相次いでCEOが1-2月期は黒字を確保したうえに、この先についても業績見通しに強気なコメントを発したからです。この動きを見て日経平均株価は+5.52%と大きく上昇しました。ただTOPIXは+0.40%、東証マザースも+0.55%とわずかな戻りに止まり、残念ながらJASDAQ総合指数は△0.65%と前週末より安いままです。つまり市場の反応には他にまだカラクリがあるということです。

■対円でも、対ドルでも、ユーロが買われたカラクリ

 その最大の関心事はユーロの動きです。前週末に比べて、円は対ドルでは買われて円高となっていますが、対ユーロでは逆に売られて円安、つまりユーロが買われています。ドルとの関係を見ても、ユーロ高ドル安(1ユーロ1.26490ドルから1.29200ドル)になっています。ただこの3通貨の動きだけを見て、ユーロが強くなって来たのだから欧州リスクは消えたと考えるのは時期尚早です。

 G20でもどうやら議論の対象になっているようですが、スイス国立銀行が利下げと共に「自国通貨売りのユーロ買い」介入を行い始めたことにこれは起因しているからです。チャートを添付しましたが、スイスフランが12日の利下げと同時に極めて人為的に変動していることがお判りいただけると思います。これが介入です。対ユーロの自国通貨高で悩むスイス国立銀行が利下げ(通貨安要因)と共に売り介入を実施しました。

■ユーロ高フラン安の副次効果を狙うその意図は?

 報道にもありましたが、東欧諸国のフラン建て民間債務はフラン急騰で膨らみ、これが欧州金融機関のバランス・シートを傷めます。その欧州の中でもひと際「金融立国」として金融業のウェイトが高いのがスイスであり、GDPの5倍とも言われる資産をUBSが一行で抱えています。つまりフランの急騰を食い止めて安くすれば、結果として東欧諸国の債務は軽くなり、欧州金融機関のバランス・シートへのダメージは少なくなるという効果が期待される中で、金融立国の中央銀行にとってこれは大きな打ち手なわけです。ただこれを受けてG20ではこうした介入への是非が議論となっています。またそもそもなぜそんな通貨の相対価値変動があったのかなど、この問題のインプリケーションは極めて複雑です。故に安易に安心するのはまだ早いと思われます。

■米銀の収益構造は改善したと言えるのか?

 米銀の収益改善は1−2月期という期間だけの話なので、それが長期にわたる今後の流れを示す最初の微小な変化なのかという点については、まだ議論を残します。時価会計原則の見直し論までが議論される現状を考えれば、さすがに楽天家の立場でも手放しに安心と考えるのは複雑です。ただ、話題の中心であったシティ、JPモルガン、バンカメと揃って同様な見通しであることからすると、ある程度の信憑性はあると考えて良いのかも知れません。

 またエコノミストの予想にしても悲観一辺倒であった状況からはかなり改善してきており、これらも支援材料かも知れません。いずれにしてもエモーショナルな株式市場の動きを追う前に、当面は為替市場や債券市場の動きに注目しておくべきと考えます。単一のアセット・クラスの動きだけに捉われるのはリスクが高過ぎると見ています。


(出典:Bloomberg)

<今週のチャートはスイスフランの対ユーロのチャートです。----- 3月12日にかなり不自然に陽線が立っているのはスイス国立銀行が介入した結果です。これがG20でも議論の対象になりました。>

今週のポイント

■明るい兆しがない訳ではない

 内閣府が13日に発表した2月の消費動向調査によると、消費者心理を示す消費者態度指数(一般世帯)は26.7と前月に比べて0.3ポイント上昇したようです。これを受け、内閣府は17カ月振りに基調判断を上方修正したようですが、こうした明るい兆しを示す話題がない訳ではありません。前述の米銀トップの収益見通しなどもそうですが、国内でも現状の厳しい減産体制を解除する目途が自動車産業などで徐々に発表され始めています。

 またホットな話題としては、今や日本のお家芸になりつつあるハイブリッド自動車について、ホンダがインサイトで好調な受注を獲得していることを発表したかと思えば、トヨタもプリウスよりも2−3割も割安な200万円を切るハイブリッド自動車の2011年には投入する見通しであることを発表しています。これらを支えるのは自動車伝統のメカトロニクスの技術や、或いは得意のハイテク技術であることはもちろんですが、実は一見地味な生産技術であったり、日本人独特の会社に対するロイヤリティーの持ち方などだったりが重要な強みの源泉となっていることはあまり知られていないことだと思います。

■トヨタの定昇維持の発想が日本の強みを生んでいる

 そうした意味において、この逆境下においても11日にトヨタが定期昇給に相当する賃金制度維持分について満額回答したことは称賛に値すると思っています。その結果として、定昇維持が他企業にも波及したということも重要ですが、95年当時の厳しい円高局面でも「三河の雇用を守る」という経営判断をした同社の強さの源泉が、今尚残されていることの証しだということの方がより重要だと思っています。

 同社及びそのグループ企業をつぶさにフォローするようになって久しいですが、その強さの源泉は社員のロイヤリティーの高さにあると思わされる事例を度々見てきました。「三河の雇用を守る」という話もそうですが、97年にアイシン精機の刈谷第一工場で発生した火災でプロポーショニング・バルブと呼ばれるブレーキ油圧制御関係の部品ラインが焼失した時の、その後の対応ドラマなどもその一例で、そうした流れの延長線上で今回の定昇維持の問題も捉えることができるような気がします。恐らくよく言われる「徹底したボトムアップ・アプローチ」などでは評価されないポイントかも知れませんが…。

■風が吹いたら桶屋が儲かるという話

 株式投資は連想ゲームの巧拙が収益を左右するというのがかねてからの持論ですが、今どんな風が吹いているのか、その強さ、向きなど、そして結果どこの桶屋が儲かるのかといったことを考えるのが重要です。この意味において、新聞を見ているだけでも、それはまだまだ微小な変化、言うなれば頬を撫ぜる風のわずかな変化に過ぎない程度のことではありますが、悲観論一辺倒だった一時期とは少し違ったものを感じるようになってきたと思います。

 まだドライバーを振り回すには早過ぎます。ただ一時のように「何でもかんでも“刻め”という状況でもなくなってきた」と見ています。少なくともチャプター11による清算手続きを余儀なくされるだろうと目されるかつての世界の巨人GMの置かれた状況と、トヨタをはじめとする日本の自動車産業の状況とは、本質的にかなり違ってきています。それは先月下旬の名古屋方面への出張でも明らかに体感してきました。日本への自信、取り戻しても良い頃なのだと思います。

 今週も素晴らしい一週間になることを願っています。

 

PROFILE

大島和隆

楽天証券経済研究所 チーフストラテジスト。
約20年間にわたり、欧米の企業も自ら訪問調査するファンドマネージャーとして活躍し、2008年6月から現職。
日本企業を外から見た目線で評価する独自の判断にこだわってきた。

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