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楽天証券ニュース[マーケット情報] 発行:2009年3月9日 楽天証券株式会社

楽天証券

チーフストラテジストが、1週間のマーケットに鋭く斬り込む! 大島和隆からの手紙

マーケット概況

株式 週末終値
(3/6終値)
前週末比
(2/27比)
日経平均 7,173.10 -395.32 -5.22%
NYダウ 6,626.94 -435.99 -6.17%
金利・為替 週末終値
(3/6終値)
前週末比
(2/27比)
長期金利 1.290% +0.020%
ドル/円 98.33  
ユーロ/円 124.38  

本当はGMやシティはもう関係ない?という事実

前週の総括

■ECBは5日に予定通りに0.5%の利下げをしたが…

 先週の主な市場の動きは上記の表の通りです。株式市場は米国発の金融不安と為替変動の二つの綱引きが続いています。ただ、この5日間の日経平均株価の動きを為替の動きと重ねると、株式市場は為替の影響をより強く受けていると言えます。そして3月5日には、「予想通り」というよりはもう「予定通り」と言って良い感覚でECB(欧州中央銀行)と英国中央銀行が共に0.5%の利下げを行い、政策金利をECBが1.5%、英国中央銀行が0.5%としました。何が問題と言えば、トリシェECB総裁が「現行水準(政策金利)が最低水準と決めたわけではない」と今後の利下げに含みをまだ持たせたことにあります。

■欧州リスクはまだ消えない

 前回ECBが2.5%から2.0%へ利下げした局面では、ユーロ圏の政策目標の一つであるインフレ率2%の維持にやや不安があるため、市場は次なる利下げを予測しているにもかかわらず、トリシェECB総裁も、とりあえず「次は考えていない」という程度には突っぱねる強さもありました。しかし今回は利下げする傍らで次なる利下げにも含みを持たせる状態。一方の英国中央銀行も利下げ可能な糊代が残り0.5%になったこともあり、量的緩和も打ち出し、或る意味ではなりふり構わず金融のバルブを開いている状態。

 これでは欧州通貨の下落に歯止めはかからず、中東欧国の非ユーロ加盟国の通貨も巻き込んで下落が続いています。実際、ECBが日銀やFRBと同じ立場になるには、最低でもあと0.5%ずつの利下げなら最低2回、利下げ可能であり、市場がそれを督促し始める可能性だってあります。

■日本は更に政治的綻びを露呈してしまった

 ただ通貨の値段は絶対的ではなく、あくまで比較感で決まるのは承知の通り。円と比較して価値が認められれば買われるし、高いと思われれば売られます。円のファンダメンタルズに関して言えば、元財務相の酩酊事件をフックに世界で注目を集めることになってしまいましたが、ここにきて小沢民主党第一秘書の逮捕が加わり、外国人投資家の目に“混乱”の様相が伝わっているのは事実です。何も決まらないニッポンの状態に円を積極的に買う材料を見つけるのも至難の業になってきました。

■米国の雇用統計の悪化はユーロや円の救世主になるだろうか

 そんな最中、週末現地6日、つまり日本市場がクローズをした後に発表された米国の雇用統計は失業率8.1 %と25年振りの悪化を示しました。これを受けてNY時間の取引で一旦ユーロは対ドルで買い戻されましたが、円は東京時間の終値よりも安く週末を迎えています。そうした流れを象徴するかのように、NY株式市場の主要株価指標である、NYダウとS&P500種は共に引け間際に買い戻され、前日比プラス、ナスダックもマイナス30ポイントを超える下げからマイナス5.74まで戻して引けています。

 つまり、確かに雇用統計は悪かったのは事実ですが、かねてから申し上げている通り、米国市場は良くも悪くも透明性が他市場に比べて高いが故に、改めて驚いて腰を抜かす材料にはならなかった、少なくとも金融市場にとっては織り込み済みな面が多々あったということを裏付けました。

■NYダウの7,000ドル割れをどう考えるか?

 さはさりながら、多くの論調はNYダウの7,000ドル割れの方を問題視しているような印象を受けます。このレポートの題名にも記したことからもお分かりいただけると思いますが、それ自体にあまり意味はないと考えています。また米国株式市場についてのみならず、株も為替も、上海株式市場が堅調だという展開を除いて、総じて昨年末来のここまでの流れは予想通りになっています。

 つまり2月から3月にかけて「もう一度はヒヤッとする展開がある」、或いは年間のイメージは「N字型」、オバマ大統領誕生後に期待先行が現実への移行段階で難癖がつくというようなものです。その今の局面で更なる悲観に便乗する必要はないと考えますがいかがでしょうか?

 空前の大人気で登場したオバマ新大統領率いる政権といえども、議会で上下院共に過半数を握っているとはいえ、共和党の議事妨害を阻止するには議席数が足りない以上、すべての法案がせっかちな金融市場が求めるテンポで決まるわけがなく、またメディアだってそのビジネスの性格上、いつまでも礼賛ばかり続けているはずもなく、そうした点に着目して金融市場の振り子が反転するのは当たり前の話と見るべきなのです。ならば今をどう見るか?

■かなりネガティブ・トーン一色に染まってきましたが…

 金融市場の中でも市場参加者の構成要因もあり、世論のヒステリックな反応を反映しやすい市場もあれば、冷静な市場もあります。円為替は昨今のFX取引の拡大で、従前よりは世論を反映しやすくなったとはいえ、株に比べれば全然レベルが違います。しかしそれ以上に冷静なのが短期金融市場です。

 経済新聞を隅々までお読みの方ならお気付きだと思いますが、企業金融が3月末に向かって極めて厳しい状況にあるという事実もある一方で、東京銀行間取引の期末越え水準を確認できるTIBOR3カ月物という取引レート(金利)の水準が、異常な高止まりをしていた段階から、ここにきて1年9カ月ぶりの水準まで下がってきました。先読みするならこのあたりは注目かと思います。

■原油、金価格ともに週末に切り返す

 原油は、WTI原油先物価格は週末終値対比では前週末比でやや上昇して45.52ドルとなっていますが、週初40.15ドルまで下落するなど不安定な状態を続けています。一方、金価格ですが、ECBの利下げ、米国雇用統計の悪化をあり、週末には値を戻していますが、それでも前週末対比では3ドル安い939.35ドル/OZで取引を終了しています。


(出典:Bloomberg)

<今週のチャートは金価格のこの10年間です。----- 通貨への不信が反映されていると言いますが、この先世界統一通貨“金”でも誕生しない限り…。>

今週のポイント

■GMやシティがもう関係ないという理由

 前回、NYダウの指数としての意味について触れましたが、今週ももう少し掘り下げてみます。添付した表は先週1週間のNYダウ構成銘柄30種の値動きと、その変化率、そしてそのNYダウへの影響度をまとめた表です。銘柄の並びの順番は下落率の大きい方からソートしてあります。

 ご覧いただける通り、下落率上位は新聞紙上をにぎわせた1位がGM(ゼネラル・モータース)であり、2位がシティ・グループ、3位がJPモルガン・チェース、4位がバンク・オブ・アメリカと以下を見てもなるほどと頷ける内容ですが、実はこの並びではNYダウの週間下落幅約435ドルを論理的には証明できません。注目いただきたいのは一番右側の列、寄与度の欄ですが、実はGMとシティの下落分だけではNYダウは10.11ドル(6.37ドル+3.74ドル)しか下がりません。

 今週最もNYダウの下げに貢献した銘柄は下落率第3位にいるJPモルガン・チェースです。そして2番目はなんとIBM。実はこのIBM、2009年年初来のリターンで見るとプラス1.96%と全体が大きく下落する中でプラスのリターンを挙げている銘柄です。以下貢献度3位以下は、エクソンモービル、3M、ホームデポ、P&G、シェブロンと続きますが、この7銘柄で全体435ドル下落のうち約52%にあたる227ドル相当を説明してしまいます。

■仮にGMとシティが破たんしたら…

 仮にGMとシティの株価がこの先ゼロになったとしても、この2銘柄だけではNYダウはもう論理的に20ドルも下がりません。もちろん、そのインパクトは他の銘柄へ多大なインパクトを与えるでしょうから見過ごせるわけもありませんが、指数としてのインパクトはそういうものだと頭の片隅にでも置いておくことは重要だと思います。つまり、今、指数を動かしているのは別の事かも知れないということです。

<NYダウ構成銘柄30種の値動き・変化率・NYダウへの影響度>

名称 3月6日
終値
2月27日
終値
価格比 変化率 寄与度
GM(ゼネラル・モーターズ) 1.45 2.25 -0.80 -35.56% -6.37
シティグループ 1.03 1.50 -0.47 -31.33% -3.74
JPモルガン・チェース 15.93 22.85 -6.92 -30.28% -55.13
バンク・オブ・アメリカ 3.14 3.95 -0.81 -20.51% -6.45
GE(ゼネラル・エレクトリック) 7.06 8.51 -1.45 -17.04% -11.55
アルコア 5.22 6.23 -1.01 -16.21% -8.05
アメリカン・エキスプレス 10.26 12.06 -1.80 -14.93% -14.34
ホーム・デポ 18.00 20.89 -2.89 -13.83% -23.02
デュポン 16.87 18.76 -1.89 -10.07% -15.06
3M(スリーエム) 41.83 45.46 -3.63 -7.99% -28.92
ヒューレット・パッカード 26.98 29.03 -2.05 -7.06% -16.33
IBM 85.81 92.03 -6.22 -6.76% -49.55
メルク 22.74 24.20 -1.46 -6.03% -11.63
エクソン・モービル 64.03 67.90 -3.87 -5.70% -30.83
ユナイテッド・テクノロジーズ 38.54 40.83 -2.29 -5.61% -18.24
キャタピラー 23.23 24.61 -1.38 -5.61% -10.99
ウォルト・ディズニー 15.83 16.77 -0.94 -5.61% -7.49
マイクロソフト 15.28 16.15 -0.87 -5.39% -6.93
P&G(プロクター・アンド・ギャンブル) 45.71 48.17 -2.46 -5.11% -19.60
クラフト・フーズ 21.62 22.78 -1.16 -5.09% -9.24
AT&T 22.58 23.77 -1.19 -5.01% -9.48
ベライゾン・コミュニケーションズ 27.28 28.53 -1.25 -4.38% -9.96
コカ・コーラ 39.10 40.85 -1.75 -4.28% -13.94
ボーイング 30.10 31.44 -1.34 -4.26% -10.68
ジョンソン・エンド・ジョンソン 47.97 50.00 -2.03 -4.06% -16.17
シェブロン 58.27 60.71 -2.44 -4.02% -19.44
インテル 12.41 12.74 -0.33 -2.59% -2.63
ウォルマート・ストアーズ 48.91 49.24 -0.33 -0.67% -2.63
マクドナルド 52.12 52.25 -0.13 -0.25% -1.04
ファイザー 12.73 12.31 0.42 3.41% 3.35

(作成:楽天証券経済研究所)

■世界パソコン出荷4.5%減の意味は悪くない

 悲観論が蔓延している時に8年振りに世界のパソコン出荷がマイナスになると言われれば更なる悲観に拍車もかかろうかというものですが、ここで読み説くべきものは違います。確かにデルやヒューレット・パッカード、或いは日本でも東芝、NEC、ソニーといった“レガシーなパソコン”ビジネスの部分については厳しく、そこへの部品提供だけに関して言えばそのビジネスも苦しいだろうとは想像に難くありません。

 ただ、落ちているのは企業向けなどを主体とするデスクトップ型であり、最近は企業も取り入れ始めていた高価格の部類に入るノートPCだということです。それを含めてもノートPCは4.3%は伸びると言われており、それを支えているのは500ドル・パソコン、いわゆるネットPCです。

■時代は変化を肌で感じるべき時

 一方で任天堂DSの世界販売累計台数が今月中にも1億台を突破する勢いです。パソコンの普及規模に比べればゼロの数が違いますが、上述のネットPCの話と併せて共通点が多々あります。携帯電話がスマートフォンにリプレイスされていっている流れというのもあります。詳細は今週末にアップする予定の楽天マネーニュースのブログの方でいたしますが、車もダメ、パソコンもダメと否定形だけで見る局面ではないと思われます。20万円も30万円もするような過剰なハイ・スペックのパソコンの買い替え需要が現時点でないとしても、それは当たり前のこと。

 責めの一部はWindows Vistaの失敗にも懲りずに、性懲りもなく“Windows 7”などと、もう次世代のOSの話をし始めているマイクロソフトにもあります。Web2.0という言い方さえ古くなりつつある現在において、旧来のウィンテル・モデルはすでに陳腐化しつつあり、その延長線上にあるハード・ウェア・ビジネスも寿命が来ているのは自明です。その変化を今は肌で感じられる時だと考えています。在庫調整のための減産とは別に見ていく目が問われる局面だと考えています。

 今週も素晴らしい一週間になることを願っています。

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PROFILE

大島和隆

楽天証券経済研究所 チーフストラテジスト。
約20年間にわたり、欧米の企業も自ら訪問調査するファンドマネージャーとして活躍し、2008年6月から現職。
日本企業を外から見た目線で評価する独自の判断にこだわってきた。

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