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楽天証券ニュース[マーケット情報] 発行:2009年3月2日 楽天証券株式会社

楽天証券

チーフストラテジストが、1週間のマーケットに鋭く斬り込む! 大島和隆からの手紙

マーケット概況

株式 週末終値
(2/27終値)
前週末比
(2/20比)
日経平均 7,568.42 +152.04 +2.05%
NYダウ 7,062.93 -302.74 -4.11%
金利・為替 週末終値
(2/27終値)
前週末比
(2/20比)
長期金利 1.270% ±0.000%
ドル/円 97.71  
ユーロ/円 123.83  

政局不安、政治不信が日本を救うこの皮肉

前週の総括

■週前半は外部要因で日本株は売られた

  先週の主な市場の動きは上記の表の通りです。「日経平均バブル後最安値更新!」と多くのメディアに報じられた先週も、週を通じてみると対前々週末比でプラス152.04円(+2.05%)と上昇して引けました(下のチャートも併せてご参照ください)。内容は週の前半は外部要因、すなわちGMの問題であり、米国金融機関の問題であり、中東欧の問題であったりするわけですが、これらに引きずられるようにダラダラと売買代金も少ない中を売り込まれました。ただ確認をしておきますが、取引時間中にバブル後の最安値を割り込んだのは、あくまで「引け値ベース」。同じく取引時間中ということならば、昨年10月28日に日経平均は7,000円をわずかに割り込んでおり、ザラバ安値という比較論では糊代はまだ160円程度ありました。

■週後半は為替要因、それも対ユーロで日本株は買われた

 先週1週間分の新聞を脇に置いて再度目を通しても、自分のスクラップブックにあらためて目を通して見ても、国内要因として明るい話題を拾うことは決して容易ではありません。23日「金属や化学、減産幅縮小」、24日「白物家電出荷3.4%増」、26日「日産、減産幅縮小」など小さな記事はありますが…。故に24日に上述のような安値を示現したわけですが、そこからリバウンドした最大の理由は為替、円安、それも対ユーロです。

 下の2枚目のチャートは直近1年間のドル円相場のチャートです。ご覧いただけるように、1月21日に1ドル87.12円を付けた後、下髭を伸ばすような線を引きながらも2月27日の98.71円の円安値まで一気に為替は方向転換しています。上向き始めた75日移動平均線を25日移動平均線が綺麗に下から抜いてきており、また昨年12月17日につけた安値87.15円と併せて綺麗なW字の形を書いています。私はチャーチストを自認しておりませんので、あえて強くは申し上げませんが、前者が一般に言うところのゴールデンクロスであり、後者がダブルボトムであることに異議を唱える人は少ないだろうと思います。

 ならば何故、それが先週になってから株式市場に大きく影響し始めたかと言えば、実は円安は対ドルでは顕著でも、対ユーロで明らかにトレンド変更の可能性が見えてきたのは、先週初めだからです。24日に120円を超えて26日には126.08円まで一気に円安が進んだからです。まだ25日線と75日線のゴールデンクロスもなければ、ドル円で見るような綺麗なダブルボトムという感じでもありませんので、市場が半信半疑なのは事実でしょうし、まだユーロには売られる材料がたくさんあるからです。ただ、日本企業が対ドルの円高よりも、対ユーロでの円高に対して免疫が低いことが明らかになったのが2008年第3四半期の決算結果でもあるので、ここに視点が集まったのは当然と言えます。

■政治リスクの表面化が日本企業を救ったこの皮肉

 なぜ、この時期に円安に転換したかについては諸説あります。米国に資金が回避・回帰したという見方ありますし、日本のGDPなど経済統計発表で日本の景気の悪さが再確認されたというのもあります。為替市場の専門家達からのこれらの見方はどれも正しいのだろうと思いますが、私は日本の政治リスクの顕在化が顕著になったというのが一番の大きな流れだと思います。何故なら、経済統計等の数値ならば、少なくとも市場参加者の専門家(評論家は別です)たるもの、かなりな確度で事前に予想できているはずだというのが私の従前からのスタンスだからです。

 それに対して、政治やそれを取り巻く世論についてはなかなか定量化し難い。ただ今回、少なくともYou Tubeなどでもあまねく世界に流布されてしまった中川元財務長官の失態は、世界中から日本の政治状態に対する注目を集めるトリガーには成り得、それをフックに現状やその後の対応に目線を置けば、少なくとも漫然と「サブプライムの影響が一番少ない」という論拠だけで円をラストリゾートとして評価するのは難しいと外国人投資家の目に映っても不思議ではないからです。そして問題含みの対ユーロでも円は売られた。

■世界中で銀行国有化の流れが始まった

  “国有化”の定義は曖昧かも知れません。ただ国が所有権を有するという字面でも明らかですが、公的資金が注入されればそれは国有化の始まり。議決権つきの普通株式を過半数握らなくても、銀行を含む金融機関の多くが認可業種である以上、少しでも注入されれば、それこそ箸の上げ下ろし(欧米ではナイフとフォークの使い方?)ひとつにまで注文がつき始めます。その代償として、金融機関としての破綻は免れ、預金者などの顧客は保護されます。

 その意味ではシティ・グループはその道を着実に歩んでおり、英国では26日にRBS(ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド)は公的資金注入後の次なる段階として不良債権に政府保証をつけることが発表されました。恐らくこの流れは世界的にも加速していくのでしょう。ただそれを手放しで喜べないのは、それらを保証する国自体の力に疑問符が灯るところがこの先出てくるという問題です。米国や英国は大丈夫かも知れません。ただECB非加盟国であるスイスや中東欧の国々、民間債務の返済繰り延べを発表したロシアなどを含む世界各国まで視野を広げた時、公的管理の最終能力についてはまだ予断を許さないというのが現実だと思います。

■原油はやや反転、金価格は一服

 原油は、WTI原油先物価格は限月交代をしましたので価格の連続性は途切れていますが、週末終値は前週末対比で約4.7ドル高い44.76ドルで終了しています。一方、先週「バブルの可能性が高い」と指摘しました金価格は50ドル下落の942.35ドルとなっています。通貨への不信から高値を超えて行くという見通しには私は懐疑的です。


(出典:Bloomberg)

<今週のチャート1枚目は日経平均の先週1週間の値動きです。----- 対ドルや対ユーロのチャートを比較すると、ほぼ相似形を成していることがお分かりいただけるはずです。>


(出典:Bloomberg)

<今週2枚目のチャートはドル円チャートのこの1年間です。------アルファベットの“W”の文字と、黄色い線を緑色の線が下から突き抜ける状態が見ていただけると思います。>

今週のポイント

■NYダウについて再考する

  今週のポイントとは少し離れますが、世界が注目するNYダウという“株価指数”とも“インデックス”とも呼ばれるこの指標、本当に米国経済の現在の実態を反映しているのでしょうか? できれば楽天マネーニュースへの寄稿「NYダウとNASDAQ」も併せてお読みいただきたいのですが、例えば週末27日のNYダウ下落のうち、最も寄与した銘柄はエクソン・モービル(マイナス24.3ドル分)で、次がシェブロン(マイナス19.6ドル分)です。すなわちこの二つで全体119ドルマイナスのうちの43.9ドル分、半分とまではいきませんが、かなりな部分を説明してしまう現実は正しいのでしょうか?

  更に言えば、わずか30銘柄で構成される同指数に時価がひと桁ドルを下回る銘柄が5銘柄もあり、その内の一つシティ・グループは1.5ドル、バンク・オブ・アメリカは3.95ドル、GMは2.25ドルしかありません。そして残る二つはGEとアルコアです。全30銘柄のリストも見ていただきたいのですが、これが今の米国経済を象徴しているのでしょうか? とは言え、厳然たる事実として株式市場を代表する“株価指数”“インデックス”が一般の人々のメンタリティに大きく影響するのは事実であり、それが個人消費を支える財布の紐の緩み具合に直結するならば、それは由々しき問題です。ただ逆に言うのならば、個別の投資チャンスを見出すチャンスなのかも知れません。市場は必ずしも効率的ではないのですから。

■日本経済の中心地で日本企業の強さを実感

  先週、日本経済の中心地に行ってきました。それは間違っても東京ではありませんので誤解なきよう。最初に目にした光景は、減産の影響で帰路を急ぐ人々で夕方に渋滞する道路であり、以前よりも数時間早く駅に押し寄せる人波、そして潮が引いたように静まり返る夜の街、でした。そう減産で夜勤シフトがなくなってしまった影響は見た目にもはっきりと解ります。ついこの間まで「日本で一番景気の良いエリア」を謳歌していたはずが、あっと言う間に真逆な展開になっていました。

 ただ私は二つの意味で「まだ日本は大丈夫そうだ」と思えると実感しています。まず一つ目は、これだけのテンポであれだけの巨艦を中心とした艦隊が一気に減産に舵を切れる素早さです。それをこの企業城下町では体感することができました。以前、まだGMが日本勢の猛追で減産に追い込まれ喘いでいた97年に、デトロイトにあるフリント工場を訪ねたことがありますが、そこにあるのはUAW(全米自動車労働組合)との調整が難航して、舵を切り切れないGMの窮状でした。その時のつけが10年余りたった今、同社を破綻への道へ導きました。UAWの主張する労働者の権益を守った挙句に本体が沈没するとしたら、そこには多くの議論の余地が残されると思います。「元も子もない」、その一言が頭に浮かびます。

 「派遣切り」などと呼ばれ、メディアが飛びついて喧伝する厳しい現状も否めないとは思いますが、GDPなど経済統計に素早く表れた数値の要因は在庫調整のための減産。需要の落ち込み以上に急旋回するための調整弁として減産した結果であることは議論のないところですが、これができてしまうのが日本企業の強さです。聞けば「この間に自己啓発して実力を蓄えておけ」とも言われてもいるようです。驚きです。

■技術開発のロードマップは更に進んでいる

  そしてもう一つが、休みなく続いている技術開発です。やはり日本の技術、それは設計だけでなく、生産技術なども含めてですが、日本人は日本のそれにもっと自信を持って良いと思ったからです。詳細をここで詳らかにすることはできませんが、例えばハイブリッド車の技術一つ取って見ても、正にお楽しみはこれからという感じです。

 研究開発にはお金がかかります。現時点のGMはビッグスリーの中でも抜群に技術力があることは事実でも、今は資金難に直面し、破綻に直面しています。本来、共に歩むべき部品メーカー、トヨタで言うならデンソーやアイシン精機にあたる中核の部品メーカー、デルファイは2005年10月にすでに破綻しており、ある意味、研究開発どころではありません。その今の格差はこの先益々広がるはずです。名機ゼロ戦を開発した日本の航空機産業が戦後開発を中断させられたことで、いまなお欧米の後塵を拝し続けているのと構図は一緒です。伝統的な内燃機関が次世代に変わろうとしているこの時に、技術開発のロードマップを推し進められるか否かは、この先に大きな格差となってくると思われます。

  世の中がとんでもなく厳しい状況になっていることは事実です。ただ徐々に味噌と滓の区別はつけても良い、そしてつけられる時が近付いているように思います。アクティブαを取りに行ける時も近いのかも知れません。

 今週も素晴らしい一週間になることを願っています。

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PROFILE

大島和隆

楽天証券経済研究所 チーフストラテジスト。
約20年間にわたり、欧米の企業も自ら訪問調査するファンドマネージャーとして活躍し、2008年6月から現職。
日本企業を外から見た目線で評価する独自の判断にこだわってきた。

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