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楽天証券ニュース[マーケット情報] 発行:2008年12月22日 楽天証券株式会社

楽天証券

チーフストラテジストが、1週間のマーケットに鋭く斬り込む! 大島和隆からの手紙

マーケット概況

株式 週末終値
(12/19終値)
前週末比
(12/12比)
日経平均 8,588.52 +352.65 +4.28%
NYダウ 8,579.11 -50.57 -0.59%
株式 週末終値
(12/19終値)
前週末比
(12/12比)
長期金利 1.220% -0.170%
ドル/円 89.14  
ユーロ/円 124.07  

Wall街のセンチメントは最悪だった

前週の総括

■日経平均株価がNYダウに勝った!?

 先週の主な市場の動きは上記の表の通りです。今年に入ってから3月のベア・スターンズ破綻後の2日間を除き、10月8日までは日経平均株価の方がNYダウより絶対値として高い(勝ち)日が続きましたが、その後は日々の動きで見ると勝ったり負けたり。10月下旬の酷い時など1,443.92ポイントも負けとなりました。週末時点を比較すると10月10日以降、12月12日まで10連敗となりましたが、先週末久し振りに週末比較で日経平均株価がNYダウに勝ちました! ただ、その差は僅かに9.41ポイントに過ぎませんが・・・。

 「だから何だ?」と聞かれると困ってしまうのですが、昨年2007年末で比較すると日経平均株価が15,307.78円、NYダウが13,365.87ドルと、絶対値で2,000ポイント近く優位にあった日経平均株価が、週末ごとで比較するとここずっとNYダウを下回り情けない限り。ただそのひとつの理由は、見出しに書いたようにWall街で働く人々のセンチメントにあると実感して米国出張から帰国の途についたからです。このインプリケーションは案外大きいかも知れません。

■米国FRBの果敢な挑戦

 先週、正にその私が帰国するために乗った飛行機がNY・JFK空港を離陸した直後、FRBは信用収縮に歯止めをかけ、この危機を克服するための背水の陣とも言うことのできる事実上のゼロ金利政策と量的緩和政策を発表しました。これはFRBにとって史上初の取り組み。これを受けて、金融株を中心にNYダウは9,000ドル回復目前まで急騰しています。またこの結果、政策金利についても日本が米国に勝っ(高い)てしまい、「水は高いところから低いところに流れるが、お金は逆に低いところから高いところに流れる」という教科書の教え通り、ドル円為替も一気に87円台前半まで円高が進行しました。同じことがドルとユーロの関係でも起こり、つられて円ユーロも動き、瞬間130円台もつけたりしています。

■日本はまだ石橋を叩いて・・・

  翻って日本。内閣支持率は地に落ちたと言っていいほど低迷し、一方、日銀の対応も後手後手に回っている感は否めません。傍から見ていると、政治も含めて、日本には米国のような強烈なリーダーシップを発揮する人や組織がないように思えてなりません。とはいえ、遅まきながら週末金曜日には日銀も0.2%の利下げと併せてCPの買い取りや長期国債の買い入れ増額など資金供給の拡充策を決めました。この流れを受け、ドル円も日米金利格差の縮小から90円近くまで戻しました。

  しかし、米国が危機意識の高まりからそれまで1%であったFFレートをいきなり0.0%〜0.25%という水準までサプライズを伴う様に大鉈を振るったのに対し、散々逡巡した挙句の今回の日本のそれはいかにも“遅い”という感は否めません。外部要因と、急激に高まった国内景気の減速に、少なくとも風邪薬の「早めのパブロン!」という感じはなく、むしろこじらせてしまってからの点滴注射という評価だと思います。肺炎になってしまってからでは遅すぎるのに。

■デトロイト救済、米国はルビコン川を渡った

  もうひとつの重要なテーマは米国自動車産業の危機に対して、ホワイト・ハウスはどうするのか?ということでしたが、ブッシュ大統領は19日、GMとクライスラーに繋ぎ融資をすることを発表し、とりあえず、オバマ次期大統領が抜本的な対応に動き出すまでは生命維持装置をつけることになりました。これにも公的資金を使っての民間企業救済はいかがなものかとの賛否両論がありますが、少なくとも年内に米国経済に最悪の危機が訪れることは回避されたと思います。

■苦悩の自動車業界への最大の援軍か?!

  更に特筆すべき先週の動きは原油価格の低下です。OPECは原油価格維持と価格上昇を図るべく減産などの対応を打ち出していますが、WTI1月限は先週16日についに40ドルを割り込み、週末は33.87ドルという安値で取引最終日を迎えました。2月限は42.36ドルと限月交代のテクニカルな動きと、若干の先高感を映しているのか未だ40ドルは下回っていませんが、しかしこれは特筆すべきことです。

 写真はまだWTIが45ドル界隈にあった時の現地ガソリン・スタンドの看板ですが、1ガロン=1.69ドルと表示されています。これを89円で円換算すると、なんと1リットルが約40円です。7月末にはこれが124円でした。そしてその45ドルから更に25%近くも下がっているのですから、素直に価格に反映されるとすると1リットル当たり約30円になってもおかしくありません。これは凄いことです。


(出典:Bloomberg)

<チャートはWTI原油先物1月限の先週7日間の日中足です。----- FRBがゼロ金利政策を取ってまでもこの危機を乗り越えるという意思表示は、こんなところにも反映したのかも知れません。利下げ直後から下落が加速しています。>

今週のポイント

■米国消費は予想ほど落ち込まないかもしれない

  前回、米国西海岸からのレポートで「市場の悲観論一辺倒な論調には与しがたく」という印象を書きましたが、NYに移動した後も、正直その印象は変わりません。それは前回ご案内した中にある全米No.1の家電量販店BEST BUYの9-11月期決算が市場予想を上回ったからというわけではありません。マンハッタンが全米屈指の観光地であり、ロックフェラーセンターの有名なクリスマス・ツリーを見るために観光客がドッと各地から押し寄せているからなのかも知れませんし、ホリデーシーズンのお祭り気分がそう見えたのかも知れません。しかし、市場から発信されているほどの悲観的な見通しがすんなりと飲み込めるような印象は最後まで持ち得ませんでした。

■頑張れ、Wall街!

  ただ、明らかに感じたことは、Wall街で働く人のマインドの落ち込みは相当酷く、LTCMの破綻直後やITバブル崩壊過程、或いは9.11同時テロ直後などの状況とは比べ物にならないほど落ち込んでいるということです。Wall街のビジネスモデルといえば、好況ならばガンガン人を雇い入れ、不況になると直ぐに解雇する。その機動的な対応、雇用の柔軟さが報酬のボラティリティの高さの裏付けでもあり、会社側も、そこに勤める人たちも、ある納得感の中で金融ビジネスに居たはずです。でも今は違います。各金融機関の収益悪化の速度が速すぎ、そうしたダウンサイジングの速度がそれに追いつかない。サブプライム関連の証券化商品に止まらず、損失の根源はオルトAローンなどにまで更に拡大するかにもみえ、ダウンサイジングの終着点を誰も確信が持てていない。だから日々どこかでビクビクしているし、そうした話題が彼らの間では事欠かない状況です。そんな中から明るい話題、回復の兆しを探すような機運は中々盛り上がらなくて当然なのかも知れません。

■原油価格・ガソリン価格下落の恩恵は無視できない

  カリフォルニアの人の平均的な通勤距離というのは解りませんが、ある調べによると片道30マイル(約50キロ)程度。フリーウェイが発達していますから時間にすると40分から50分程度で充分通勤可能な距離ですが、そうすると月間の通勤のためのドライブ距離は約2,000キロになります。大型SUVからコンパクトカーまで含めて平均的な燃費を8km/lと仮定するとひと月当たりのガソリン消費量は250リットルです。前述のガソリン価格で比較するだけでも、原油価格の下落分で家計に対する圧迫が21,000円/台減ったことになります。

  米国では夫婦共稼ぎが多く、ご主人と奥さんが別々に車を利用しているとすると、家計に与える影響は毎月42,000円もプラスになっていることになります。実感が湧きやすいようにあえて円ベースで考えてみましたが、単純にドルで420ドルと考えると、これはマクドナルドなどファーストフードでのランチならおよそ70食分に相当し、つまり共稼ぎ夫婦2人のひと月のランチ代が浮いた計算程度になります。これが消費に回ったとしても不思議ではありません。ホーム・エクイティ・ローンで米国の人々は借金をしまくって消費に回していたから大変だという議論も勿論承知していますが、それって日本でもよくある「みんな○○○しているから」という見方と同じ面があるのではないでしょうか? だからこそ、最近の米国市場の株価は打たれ強くなってきているように思われます。

  ただいずれにしても、今週はクリスマス休暇に入るため、欧米の投資家はかなり動きがなくなるはずです。年内のイベントは峠を越したというこの段階、経済指標の発表はいくつかありますが、プレイヤーが少ない分、あまり大きな動きは出ないだろうと思われます。国内では年越えのポジション整理が週後半から始まると思われますので、その点は少し意識をしておいた方がいいかも知れません。

 今週も素晴らしい一週間になることを願っています。

 

PROFILE

大島和隆

楽天証券経済研究所 チーフストラテジスト。
約20年間にわたり、欧米の企業も自ら訪問調査するファンドマネージャーとして活躍し、2008年6月から現職。
日本企業を外から見た目線で評価する独自の判断にこだわってきた。

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