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楽天証券ニュース[マーケット情報] 発行:2008年12月8日 楽天証券株式会社

楽天証券

チーフストラテジストが、1週間のマーケットに鋭く斬り込む! 大島和隆からの手紙

マーケット概況

株式 週末終値
(12/5終値)
前週末比
(11/28比)
日経平均 7,917.51 -594.76 -6.99%
NYダウ 8,635.42 -193.62 -2.19%
株式 週末終値
(12/5終値)
前週末比
(11/28比)
長期金利 1.370% -0.025%
ドル/円 92.89  
ユーロ/円 118.30  

サイバー・マンデーの小売売上は史上第2位の規模まで拡大

前週の総括

 先週の主な市場の動きは上記の表の通りです。まず最大の懸案事項は「外国人投資家がお休みだと、こんなにも売買代金が細るのか」ということです。先週の立ち上がりの月曜日はサンクスギビング・デーのお休み最終日と時差の関係で重なっているため、基本的には外国人投資家は不参加。途端に売買代金は今年最低のなんと1兆1千億円。活況の目安とされる2兆円の約半分。そんな中で迎えた火曜日、NY市場が急落して帰ってきた朝だったので、それにつられて533円安。NY市場はその後週末にかけて盛り返したため週を通じるとマイナス2.19%で終わったものの、日本市場はそのままベターッと横ばいマイナス7%の下落で終了しました。(2つのチャートを比較してご覧ください)


<クリックで拡大>

<チャートは日経平均株価(上段)とNYダウ(下段)の先週5日間の日中足です。----- 比較して見てください。米国市場の下げに反応した後は、日経平均株価は動けていません。最悪と言われた米国雇用統計を見て急落で始まった米国NY市場は、悪材料を織り込み、引けに向かって大きく上昇して終わっています。日本の週初はこれに反応してくれると良いのですが…。>

  NY市場が週明けドスンと下げた理由は「全米経済研究所(NBER)が2007年12月に米国はリセッション(景気後退)に入ったと発表」したからということに表向きはなっていますが、これだけのことではいくらなんでもNYダウは7.7%も1日では下がりません。調べてみても納得できるような要因はありません。

  “2007年12月から”という記載は間違いではなく、つまり現状の景気実感を言葉として追認しただけですから、市場にサプライズはありません。これが仮に突然「今月からリセッション入りします!」という宣言だったら別ですが。

  となるとNY市場月曜日(現地12月1日)の下落は何だったかというと、11月決算を跨いだヘッジファンドの期変わり最初の売買執行と見るのが妥当だと思います。ヘッジファンドの決算は11月と12月が主流。そしてあちらこちらで報道されている通り、ファンドの解約や清算は後を絶たないようですが、11月決算のファンドがギリギリまで解約対応のキャッシャ作りをしておいて、期が変わった途端にポートフォリオとしての適正(?)なエクスポージャーに戻す売買執行などを期初に行ったとみたら理屈が通ります。そこに「昨年からリセッションでした!」という発表が加わり、あたかもそれが理由で総崩れしたように思われた、それが真実ではないでしょうか?

  日本市場は残念ながらそれを受けて翌朝から急落しました。ひとつには前述のような事情のヘッジファンドなどにとっては時差の関係で2日が初日だったからです。彼らは日本でのポジションも当然動かした。更に言えば、欧州中央銀行(ECB)の利下げ観測(週末に実際に利下げしました)があり、対ユーロ、それにつられて対ドルでも円高が進み「円高は外需・輸出産業にはマイナス」という図式が書きやすかったこと、また週末に米国の雇用統計発表を控え、機関投資家は様子見を決め込み易かったことなどが挙げられます。売買代金の細り具合と、日米主要株価指数の週間騰落率の違いが5%近くなった理由はこのあたりから説明ができるかと思います。

  さて、そんな材料の中で長期金利も短期金利も順調に低下しています。市場からCP発行などで資金調達していた大企業などが年末越えの資金が取り難い状況になり、それらが間接金融である銀行調達に切り替えているため、銀行の貸し控えもあり中小企業の資金繰りがますます厳しくなっているという状況もありますが、政治がスタックしている中で、中央銀行日銀は多くの手を打って来ています。

  そしてとても重要なこと、それは原油が40ドル割れギリギリとなるまで下落してきたということです。報道によれば、関西ではガソリン価格が97円との看板もあるようです。来年には25ドルまで下落するというシナリオを発表したアナリストも米国で出てきたほどです。また総合的に商品価格などの動向を示すCRB指数も200割れを目前にするほどまで下落してきました。「値下がりを待つ買い控え発生」と、これまた斜に構える論法も可能ですが、原油価格200ドルのシナリオに脅え、原材料価格上昇に利益を吹き飛ばし、インフレ・シナリオで動きが取れなくなったファンダメンタルズの絵は完全に書き換えが必要となりました。(下のチャートはCRB指数です。水準は911同時テロがあった、あの7年前の2001年まで下がりました)

  そして最後に、調査会社コムスコアによれば、12月1日のサイバー・マンデーでのネット小売売上げは、前年比15%伸びて8億4,600万ドルと、史上2位の規模になったと言います。

今週のポイント

■トヨタやソニーを買われたネット証券のお客様

 前回、サイバー・マンデーに期待したいと書きましたが、その結果は前述の通り、市場第2位の規模まで膨らみました。“消費形態の変化”という視点が昨年までと違い議論されていませんが、米国でも量販店やショッピング・モールに足を運んで買い物をするという形態から、ネット上で価格を比較して、安く物を買うという形態の変化は着実に進んでいるということです。多くの面で、ネット・ビジネスは今までの常識を覆し始めている、それはまだ始まったばかり、ということです。

 日本でもネット証券に新規口座を開設されて株式市場に“デビュー”いただいたお客様は急増しています。それも正に、リーマン・ショック以降の株式市場急落の中です。また3年も4年もお取引を休まれていたお客様の“再デビュー”の件数も急増しています。弊社のお客様の場合で調べてみると、件数ベースでソニー、金額ベースでトヨタを購入された方が多いことが解ります。因みに私の身内も“デビュー”の一人です。最近買値を下回っているので何を考えているかと心配していましたが、虎視眈々と買い下がりを考えている様子、推測の域を出ませんが、これがこの下落局面でデビューしてくださった個人投資家の方々の真の姿なのだろうなと思います。PERでも、PBRでもなく「2、3年後には宝の山になっているかも」という台詞に象徴される投資スタンスだと思います。だからこそ、ネット証券のように“PUSH型営業をしない”証券会社に、ご自身でクリックしていただいて口座を開いてくださったのだと考えられます。

 その一方で、あるリサーチによると、たとえ現状のPBRが1倍割れの水準で割安に見えるといったとしても、実際に資産を“売れる値段”で再評価すると1倍割れにならないという論法が成り立つとも言われています。すなわち、PBRの元となる企業の純資産価格は時価評価されているとは言え、それが“売れる値段”とは限らないということです。例えば不動産ですが、路線価格や公示価格で時価評価したとしても、この「100年に一度の津波」と呼ばれる“今”、売りに出してもその値段では買ってくれないという意味で、故にそれを割り引いて再計算すると割安ではないかもしれないという意味です。

 確かにそれもなるほどと頷かない訳にはいきません。適正な時価評価と言うならばそうかも知れません。そうしたベースで積み上げをすると、日経平均株価は6,000円台を下回ってもおかしくないとも言われます。ただ一方で、それは配当利回りなどの議論などを忘れています。もちろん、赤字が続いて、資本も毀損するような現実が続くようであれば減配や無配になり、それも意味ない議論となるのかも知れませんが、先週あたりから9月末中間決算分の配当を実際に手にしている方も多いと思います。ある友人も「3%以上の利回りですよ」と嬉々としていました。これも株式投資の醍醐味のひとつ。

■時代の変わる足音は、耳を澄ませば、もうそこまで聞こえています

 また前述の通り原油が安い。アメリカではガソリンが1ガロン1ドルを割るところも出てきたようです。しかも更に下がると言うアナリストまでいます。GMをはじめとするビッグスリー米国自動車産業の危機は、現状の止めを刺しに行くような惨状の原因は、確かにこの金融危機にあります。自動車ローンまでもが厳しくなるような事態だからです。でも、そもそも彼らのビジネスが辛くなった理由、もちろん、トヨタなどの日本勢もビジネスが厳しくなった理由は“ガソリン価格の急騰”にありました。

 1ガロン4ドルを超えるような事態になって、ビッグスリーの屋台骨を辛うじて支えてきた燃費の悪い大型SUVが売れなくなったからです。だからこそ、環境対応新型車の開発費用として政府が融資する話が議会を通過していたのです。その根源的な理由であるガソリン価格が4年以上前の水準まで下がって、更に大型SUVのブームが起こった頃までの水準まで下がるという絵も言われ始めたのがまさに”今“です。

 サイバー・マンデーの成果に代表される消費形態の変化、原油価格の急落と、ファンダメンタルズは、経済は、日々刻々と変化しています。自家用ジェット機をやめて、自分で運転してワシントンの公聴会まで来たビッグスリーのCEO達の話は笑い話にしかなりませんが、それでもこの危機を乗り越えようと多くの策が打たれているのも事実です。目線をどこに置き、刈り込み時期をいつと見るかにより、現状の水準は高くもなれば、安くもなると思います。

   3カ月毎のパフォーマンス説明を求められ、日々の時価評価に窮々とする機関投資家(私もその出身ですが…)の目線や論理をそのまま市場全体に当てはめる必要はありません。外需関連銘柄とされる銘柄の厳しい下げも、損失限定のための投げが最終局面となることはよくあることです。少なくとも、あとひと月もしないでカレンダーが変わります。そしてその後、ホワイト・ハウスの住人が名実共に変わります。時代の変わる足音は、耳を澄ませば、もうそこまで聞こえています。

 今週も素晴らしい一週間になることを願っています。

 

PROFILE

大島和隆

楽天証券経済研究所 チーフストラテジスト。
約20年間にわたり、欧米の企業も自ら訪問調査するファンドマネージャーとして活躍し、2008年6月から現職。
日本企業を外から見た目線で評価する独自の判断にこだわってきた。

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