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楽天証券ニュース[マーケット情報] 発行:2008年12月1日 楽天証券株式会社

楽天証券

チーフストラテジストが、1週間のマーケットに鋭く斬り込む! 大島和隆からの手紙

マーケット概況

株式 週末終値
(11/28終値)
前週末比
(11/21比)
日経平均 8,512.27 +601.48 +7.60%
NYダウ 8,829.04 +782.62 +9.73%
株式 週末終値
(11/28終値)
前週末比
(11/21比)
長期金利 1.395% -0.005%
ドル/円 95.62  
ユーロ/円 121.40  

「ルービノ・ミックス」の再現、強い米国再現なるか。

前週の総括


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 先週の主な市場の動きは上記の表の通りです。日経平均株価は25日移動平均線を13営業日ぶりに上回って終わりました。ただ手放しで喜びきれないのは、27日の売買代金が1兆2,225億円と8月の夏枯れ時よりも減少したこと。先週号でご案内した通り、先週27日は米国が感謝祭にあたった為とはいえ、外国人投資家がいなくなるとここまで売買代金が落ち込む現状は憂うべきものがあります。

 26日の新聞報道によれば日本の企業年金運用のなんと6割が日本株の運用比率を「減らす」方向で検討していると言います。経験則からいえば、これはリバース・インディケーター(逆指標)で、大体底値圏でその投資比率を減らし、天井圏で逆に投資比率を増やす傾向があるので、その意味では底値圏を示す指標とも言えるのですが、日本の企業年金が日本株の運用比率をこの水準から更に減らすというのはいかがなものかと思います。

 日銀の「資金循環の日米比較:2008年1Q」によれば、日本の年金運用における自国株式投資への投資比率は米国のそれが46.5%であるのに対して、すでにその約3分の1の17.1%しかなく、それを更に減らすということです。一方、それをはるかに上回る25.4%にもあたる資金を対外証券投資に振り向けています。日本が将来を託す年金が、目先のパフォーマンス変動に目を奪われ、日本企業の株を買わないということに問題意識はないのでしょうか?日本経済が強くなれば株価は上がり、将来世代の負担は減るのですから。いくら安定運用を目指すとはいえ、この超低金利に債券投資を増やしてどうするのでしょうか? 景気回復で金利上昇があれば、それは評価損として重く圧し掛かるはずです。不思議です。

 米国株式市場はNYダウが9.73%の上昇ですが、S&P500種はなんと12.03%の上昇となり、これは1974年以来最大の上昇率になりました。その理由は緊急レポート「シティ・グループ救済!市場はこれを待っていた。」にも記しましたが、このところの最大懸案事項の一つであったシティ・グループの再建案が次々と明らかになり、米国金融機関に対する不安が薄れてきたことがひとつの大きな要因です。

 もうひとつの大きな要因は見出しに示した通り「強いアメリカ」が復活するかもしれないと期待させるようなオバマ次期大統領の経済閣僚が明らかになったことによります。次期財務長官にNY連銀総裁のティモシー・ガイトナー氏の起用が決まり、また国家経済会議(NEC)委員長にサマーズ元財務長官、更にはポール・ボルカー元FRB議長が経済諮問理事会の代表に就任することが決まったということです。

 「ルービノ・ミックス」とはクリントン元大統領時代に財務長官を務めたロバート・ルービン氏の名前に由来するものですが、「強いドルは国益に適う」というポリシーを推し進め、米国経済繁栄の立役者と呼ばれる一人です。勿論、いろんな批判もあることは承知していますが、現実の結果論として、米国経済が「スーパー・タンカー」などと呼ばれるほどに強かった時代をリードした財務長官がルービン氏であることは否定しようがありません。

<米国歴代財務長官>
就任年月 名前 前職などキャリア 政権名
1995年1月 ロバート・ルービン ゴールドマン・サックスCEO クリントン政権
1999年7月 ローレンス・サマーズ 世銀エコノミスト・ハーバード大学学長
2001年1月 ポール・オニール インターナショナルペーパー&アルコアCEO ブッシュ政権
2003年2月 ジョン・スノー ビジネス円卓会議会長
2006年7月 ヘンリー・ポールソン ゴールドマン・サックスCEO
2009年1月 ティモシー・ガイトナー NY連銀総裁 オバマ政権

 上の表をご覧ください。これはルービン氏から次期ガイトナー氏までの歴代財務長官の一覧です。詳細はここでは省きますが、民主党政権と共和党政権という違いが一番大きいとはいえ、財務長官のキャリア、すなわちその基盤となるネットワークというのも経済運営の巧拙に影響する大きな要素だと言えそうです。その意味では、サブプライム問題に大荒れの現在を八面六臂の大活躍で動いているポールソン財務長官も共和党ではありますが、ルービン氏と同じゴールドマン・サックスの元CEOで金融市場をよく知った人です。

 ガイトナー氏はルービン・サマーズ両元財務長官時代に財務次官を務めた逸材でルービン人脈の流れをくみ、現在はNY連銀の総裁。そして国家経済会議(NEC)委員長というのは、今現在は影が薄く思われるかも知れませんが、大統領に直接意見具申する立場で、1994年の初代はルービン氏。その立場にサマーズ氏が入ります。大統領交代時に経済閣僚の決定が難航すると経済運営の立ち上がりに苦労すると言われますが、オバマ次期大統領はわずか3週間でこれを成し遂げました。因みにクリントン政権一期目は6週間掛ってしまい苦労しています。ディカップリング論が崩壊した今、世界経済にとって強いアメリカの復活は重要な筈です。

 今週、為替、金利、原油については大きな動きはありません。

<チャートは日経平均株価の日足です。----- 25日移動平均線を上回って週末を終えました。50日移動平均線までの上値余地はおよそ900円。>

今週のポイント

 今週から米国人投資家も市場に帰ってきます。そして本格的なクリスマス商戦へ突入です。まず市場の論点のひとつにその予想や状況が大きく入ってくることは言うまでもありませんが、残念ながらブラック・フライデーと呼ばれる先週末金曜日の状況に驚く話はないようです。月曜日のサイバー・マンデーに期待をしたいところですが、今年のクリスマス商戦は焦って買うという消費者心理よりも、更なるディスカウントを期待して待つという消費者心理の方が強く出そうだと思っています。ただ、すでに市場はかなり悪い数値を織り込んでいると思われ(週末、すでに調査会社ギャロップ社が発表した内容を元に、小売株は軟調に推移しています)、むしろこの先は上振れ要因となるかも知れません。

 気になるところはインドの同時テロによる経済的な影響をどう織り込むべきかがまだ不透明なところです。タイの問題も気になるところですが、現状、気にはしながらも様子を見るといったところでしょうか。

 しかし、それにしても一番の気掛かり材料は日本の政治です。先週行われた国会での党首討論、そもそも大きな期待はしていませんでしたが、「非常時には非常な行動が要る」とブラウン英国首相やオバマ次期大統領が口を揃え次々と策を打ちだし、また57兆円相当の景気対策と1%の利下げをして、更に消費刺激策を考えると中国政府も表明するなどしている緊急事態の中で、日本の与野党のトップ同士の国会討論はあれで良いのでしょうか?

 日本の企業年金さえ見放す日本株式市場は外国人投資家が占めるウェイトが益々高くなることが予想されます。その彼らにとって、日本の政治はどう映るのでしょうか? 私たちの将来を託す年金資金の4分の1に当たる25.4%が国外に振り向けられてしまうのも、その意味では正当化されてしまうのかも知れません。ただ我が子たちの無邪気な笑顔を見ながらその将来を思う時、多くの疑問は消え去りません。そんな自己否定のような年金運用を日本の企業年金がしないで済むような状況を期待したいものです。

 今週は米国で主要な経済統計が相次ぎます。詳細は弊社ホームページ「経済カレンダー」をご参照いただきたいのですが、雇用統計関連には注目が集まることと思います。また欧州でも木曜日に2008年第3四半期ユーロ圏GDP・速報値が発表になります。特に欧州景気はユーロの水準に大きく影響してきますので、注目が必要かと思います。ECBによる利下げ期待が更に高まるようだと、もう一段のユーロ安に繋がりかねず、外需関連銘柄にとってはマイナス要因になりかねません。

 ただ一方で今週は3日から幕張メッセで「SEMICON JAPAN2008」が開催されます。決して景気の良い話の聞こえてこない半導体業界ですが、基調講演の内容や新技術の発表などで市場が動くかも知れません。私も初日に取材に行く予定にしていますが、面白い材料があれば来週のこのメルマガでご紹介したいと思います。

 今週も素晴らしい一週間になることを願っています。

 

PROFILE

大島和隆

楽天証券経済研究所 チーフストラテジスト。
約20年間にわたり、欧米の企業も自ら訪問調査するファンドマネージャーとして活躍し、2008年6月から現職。
日本企業を外から見た目線で評価する独自の判断にこだわってきた。

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